※原文 : 英語
2014年2月7日

目次

Ⅰ.  (パラグラフ1-2) 

Ⅱ. マンデート及び方法 (同3-23)

 A.北朝鮮の非協力 (同9-11)

 B.作業の方法 (同12-20)

 C.報告された人権侵害の法的枠組み及び立証基準 (同21-22)

 D.証言のアーカイビング及び記録管理 (同23)

Ⅲ. 調査委員会の主な調査結果 (同24-73)

 A.思想,表現及び宗教の自由に対する侵害 (同26-31)

 B.差別 (同32-37)

 C.移動及び居住の侵害 (同38-45)

 D.食料の権利及び生存権に関する侵害 (同46-55)

 E.恣意的拘禁,拷問,処刑及び収容所 (同56-63)

 F.外国からの拉致及び強制失踪 (同64-73)

Ⅳ. 人道に対する罪 (同74-79)

Ⅴ. 結論及び勧告 (同80-94)

I. 序

1 国連人権理事会は、2013年3月21日に採択した決議22/13により、朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)における人権に関する国連調査委員会を設置した。同決議22/13において、理事会は同調査委員会に対し、特に人道に対する罪に相当しうる人権侵害についての、全面的な説明責任の確保という観点から、同国における組織的、広範かつ重大な人権侵害について調査する任務を与えた。

2 人権理事会議長は 2013年5月7日、北朝鮮人権状況特別報告者であるマルズキ・ダルスマン(インドネシア)に加え、調査委員会メンバーとして,マイケル・カービー(オーストラリア)及びソーニャ・ビセルコ(セルビア)を任命したことを発表した。カービー氏は委員長を務めた。調査委員会は、調査報告書を国連のすべての関連機関及び事務総長に提出し適切な行動に付すとの人権理事会決定を念頭に、人権理事会加盟国により与えられたマンデートを実施した。

II. マンデート及び方法

3 調査委員会のマンデートは人権理事会決議22/13のパラグラフ5に定められており、そこでは北朝鮮人権状況特別報告者の2013年報告書におけるパラグラフ31が個別に言及されている。調査委員会はこれら2つのパラグラフから、北朝鮮における組織的、広範かつ重大な人権侵害について調査する任務とは、具体的には次の重要な9分野が含まれるものと判断した。

◆食料の権利に対する侵害

◆強制収容所に関連したさまざまな侵害

◆拷問及び非人道的な取扱い

◆恣意的な拘束及び拘禁

◆差別、特に基本的人権及び基本的自由の組織的な否定及び侵害

◆表現の自由に対する侵害

◆生存権の侵害

◆移動の自由に対する侵害

◆外国人の拉致を含む強制失踪

4 上記一覧はすべてを網羅したものではない。また、調査委員会は必要に応じ、これら9分野のいずれかに本質的に関連した侵害についても調査を行った。

5 さらにマンデートは、調査が相互に関連した次の3つの目的を追求すべきであることを示している。

(a) 人権侵害についてのさらなる調査及び記録

(b) 被害者及び加害者の証言収集及び記録

(c) 説明責任の確保

6 調査委員会は、ジェンダーに基づく侵害、特に女性への暴力や女性や子どもを含む特定の集団に及ぼす侵害の影響について個別に注意を払った。

7 人権理事会決議22/13のパラグラフ5は、北朝鮮が存在する範囲内にいて調査委員会による調査の時間的範囲を特定の期間に限定してはいない。

8 地理的範囲については、調査委員会はマンデートの対象範囲には北朝鮮の領土内で行われた侵害のほか、他国からの拉致といった、同国領土外の行動ではあるものの同国に由来する侵害も含まれると解釈した。また、北朝鮮において侵害の原因となる侵害や侵害の直接的な結果としての侵害についても検討を加えた。そして、他国が果たす関連する責任の範囲についても明らかにした。

A. 北朝鮮の非協力

9 人権理事会は決議22/13により、北朝鮮政府に対し、調査委員会の調査に全面協力し、調査委員会メンバーが制限なく同国を訪問できるよう認め、マンデートの履行を可能とするために必要な情報をすべて提供するよう促した。決議22/13の採択直後、北朝鮮は、同決議を「完全に拒否し、無視する」と公然と述べた。同国は 2013年5月10日付書簡において、人権理事会議長に対し「調査委員会を全面的かつ断固として拒否する」旨伝えた。調査委員会は同国の関与を何度も求めたが、残念なことに同国の立場は一貫して変わらなかった。

10 北朝鮮は、調査委員会による同国訪問及び人権状況に関する情報へのアクセスについての再三にわたる要請にも対応しなかった。(第III節を参照のこと)

11 調査委員会は詳細な調査結果(A/HR/25/CRP.1)を北朝鮮政府に伝え、同政府のコメント及び、事実関係についての修正を求めた。金正恩朝鮮民主主義人民共和国最高指導者宛書簡(補遺I参照)の中にも、人道に対する罪に関する主な所見をはじめとして、最も重大な懸念事項の概要が盛り込まれた。同書簡では、国際刑事法における指揮官及び上官責任の原則に対する注意も喚起された。そして同最高指導者に対し、人道に対する罪の防止と抑制、及びに加害者に対する訴追と裁判の担保を促した。

B. 作業の方法

12 調査委員会は北朝鮮を訪問することができなかったため、透明性、適正な手続きの遵守、被害者及び証人の保護が確保された公聴会を通じ、直接の証言を得た。80人余りの証人及び専門家が公開の場で証言し、具体的、詳細かつ有意な情報を提供した。これにはしばしば大きな勇気が必要であった。

13 公聴会はソウル(2013年8月20~24日)、東京(2013年8月29~30日)、ロンドン(2013年10月23日)及びワシントンD.C. (2013年10月30~31日)で開催された。

調査委員会は北朝鮮当局に対し、公聴会への出席を求めたが、回答は得られなかった。

14 調査委員会及び事務局は、被害者及び他の証人に対し 240回を超える非公開のインタビューを行った。

15 調査委員会は 2013年7月、国連全加盟国及び関係者に対し、書面による提出を呼びかけた。本報告の最終稿執筆時までに受理した提出書面は80にのぼる。

16 調査委員会の公式訪問先は、韓国、日本、タイ、英国及び米国であった。

17 調査委員会は、中国における調査ならびに中国政府関係者及び現地専門家との協議を行うために、同国への訪問を模索した。2013年7月に作業会合が行われ、この点についての要請がなされた。調査委員会は、中国内の北朝鮮と国境を接する地域への訪問許可を改めて要請した。さらに 2013年11月7日、同委員会の訪中招待を要請した。

同年11月20日、在ジュネーブ中国政府代表部は調査委員会事務局に対し、同国の特に朝鮮半島における国別マンデートに関する立場から、調査委員会を招待することはできないと伝えた。調査委員会は2013年12月16日付のフォローアップ書簡において、中国における北朝鮮国籍者及びその子どもたちの現状、北朝鮮への強制退去及び関連する同国への協力,人身取引及び調査委員会のマンデートに関連したその他の問題に関して情報提供を要請した。(補遺IIを参照のこと)

18 調査委員会は、いくつもの国連機関及び他の人道関係者と関わり合ってきた。他の機関や関係者が、関連情報を提供する立場になかったものがあることは残念である。調査委員会は国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)の支援に対し謝意を表する。また、調査委員会は資金が不十分であるにもかかわらず、北朝鮮における人権侵害を徹底的に記録しているいくつもの非政府組織から、非常に有益な支援を受けた。

19 北朝鮮が訪問できないこと以外に、調査委員会が直面した調査上の最大の課題は、証人が報復を恐れることにあった。国外居住者で証人となる可能性のある者の大半は、秘密裡に証言することさえ恐れた。なぜなら,彼らは家族の安全について危惧しており、また、自分達の行動が未だに当局から密かに監視され続けていると考えていたからである。

20 調査委員会は、被害者及び証人の保護に特別の注意を払った。被害者、証人及びその他の協力者を保護する第一義的な責任は、居住国及び国籍国にあることを想起する。

それゆえ、調査委員会は各加盟国が、必要に応じて追加的保護措置を講じるよう促す。

C. 報告された人権侵害の法的枠組み及び立証基準

21 北朝鮮の人権状況の評価にあたっては、同国が市民的及び政治的権利に関する国際規約、経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約、児童の権利に関する条約、女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約の自発的な締約国として負っている拘束力をもつ法的義務に主として依拠した。国際難民法及び国際人権法における追放・送還禁止原則など、関連する他国の義務についても必要に応じて適宜検討を加えた。人道に対する罪に関連した事項の評価にあたっては、慣習国際刑事法や国際刑事裁判所ローマ規程に定められている定義に基づいた。

22 調査委員会の所見は、「合理的根拠」立証基準に基づいている。他の検討材料と整合性がとれ、また、理性的かつ一般程度に慎重な人物が当該の出来事や行動パターンが発生したと信じるに足る根拠となる信頼性の高い情報を得たといえる場合は、常に、こうした出来事や行動パターンが発生したことを立証する合理的根拠があるものと結論付けた。

D. 証言のアーカイビング及び記録管理

23 個々の加害者に関するものを含め,調査委員会が収集した情報はすべて、秘密の電子データベースに保管されている。調査委員会は、後継の事務局機能を果たしているOHCHR に対し、発生した犯罪や他の侵害についての説明責任の確保、侵害に関する真実の立証や特定の個人や機関に対象を絞った国連制裁の実施を目的として信頼に足る調査を実施する権限のある当局が、上記データベースに含まれる既存資料にアクセスできるよう取りはからう権限を与えている。右アクセスは、証人や他の情報提供者によるインフォームドコンセントが得られている範囲に限られ、また、保護及び運用上の懸念がある場合には、適正に対処されなければならない。

III. 調査委員会の主な調査結果

24 調査委員会は、北朝鮮による組織的、広範かつ重大な人権侵害がこれまで行われてきており、また、現在も行われていることを明らかにした。判明した侵害は多くの場合、国策に基づいた人道に対する罪を伴っていた。主な加害者は国家安全保衛部、人民保安部、朝鮮人民軍、検察所、司法及び朝鮮労働党の官僚で、朝鮮労働党の中央組織、国防委員会及び北朝鮮最高指導者の実質的な管理下で行動している。

25 調査委員会は、現在の北朝鮮の人権状況は、朝鮮人民の歴史的経験により形作られていることを強調する。儒教的な社会構造及び日本による植民地支配の経験によって、同国において現在の支配的な政治体制や態度を一定程度特徴付けている。朝鮮半島の分断、朝鮮戦争による荒廃及び冷戦の影響により、孤立主義的な思考様式や外部の大国に対する嫌悪が生じ、これらは国内の抑圧を正当化する口実となっている。同国の人権侵害にみられる特有の性質や全体の規模については、政治体制の性格を認識することで、より一層理解を深めることができる。この政治体制とは、ひとりの最高指導者が率いる単独政党、精緻な指導イデオロギー及び中央計画経済に基づいたものである。

A. 思想、表現及び宗教の自由に対する侵害

26 北朝鮮の歴史全体を通じて、同国の最大の特徴のひとつは情報の絶対独占と組織された社会生活の全面的な統制を要求してきたことである。調査委員会の所見では、思想、良心及び宗教の自由に対する権利ならびに言論、表現、情報及び結社の自由に対する権利はほとんど完全に否定されている。

27 同国は、公式の個人崇拝を広め、最高指導者(首領)への絶対服従を作り出すために、幼年期から根ざした網羅的な教化機構を運営しており、公式のイデオロギーや国家のプロパガンダから独立したいかなる思想をも排除することに奏功してきた。北朝鮮はさらにプロパガンダを用いて、日本、米国及び韓国といった公式な国家の敵及びその国民に対する国家主義的な敵意を駆り立てている。

28 あらゆる年齢の国民による社会活動はほぼすべて、朝鮮労働党によって統制されている。同党が運営、監督する団体を通じ、また、国民がそのメンバーであることを義務付けることで、北朝鮮は国民を監視し、その日常活動を規定することができる。国家の監視は全国民の私生活に浸透しており、政治体制及び指導者に対する批判的な意見はほぼ必ず察知されるよう担保されている。「反国家的な」活動をしたり、異議を表明したりした国民は処罰される。こうした「犯罪」の疑いのある国民を通報すると報奨が与えられる。

29 国民は独立した情報源からの情報にアクセスする権利を否定されている。国家統制下にあるメディアは北朝鮮で唯一認められている情報源である。テレビ及びラジオ放送やインターネットへのアクセスは厳しく制限されており、メディアのコンテンツはすべて厳しい検閲を受けており、朝鮮労働党から出される指令を忠実に守らなければならない。電話は傍受されており、国民への国内通話にほとんど限られている。外国の映画やドラマを含む外国放送の視聴は処罰の対象となる。

30 市場原理の強化及び情報技術の進歩により、国外の情報へのアクセスが拡大しており、韓国や中国からの情報やメディアがますます入ってきている。それゆえ、国家の情報独占は、国外から流入する情報量の増大及び国家プロパガンダから提供される情報以外の「真実」を求める国民の好奇心により揺らいでいる。当局は、定期的な取り締まりや重い処罰の執行により、情報独占を維持しようとしている。

31 北朝鮮は、キリスト教の流布を特に重大な脅威ととらえている。なぜなら、キリスト教はイデオロギー的に公式の個人崇拝に挑むものであり、また、国家の統制外での社会的・政治的組織化や交流の場を提供するからである。国家の統制下にある組織された少数の教会を除き、キリスト教徒は自らの宗教を信仰することを禁じられており、迫害を受けている。キリスト教信仰が発覚すると、厳しい処罰を受け、信教の自由に対する権利及び宗教的差別の禁止が侵害されている。

B. 差別

32 北朝鮮は、あらゆるセクターで平等、差別のないこと、そして平等な権利が十分達成され、実施されている国であると自称している。実際は、硬直的な階層社会であり、差別が固定化されている。ただし、市場の力及び技術的発展によりもたらされた社会経済的変革を通じてある程度は改められているところである。北朝鮮において国家が後押しする差別は広範囲にわたっているが、変化もみられる。差別は出身成分(songbun)制度に由来しており、この制度の下で国民は国家により割り当てられた社会階級及び出自を基に分類されている。また、政治的意見や宗教も考慮に入れられている。出身成分は、同様に広範囲に及ぶジェンダーに基づく差別とも関係がある。

障がいを基にした差別も行われているが、この特定の問題には国家が取り組み始めたかもしれない兆候がみられる。

33 出身成分制度はかつて、個人が居住を許される場所はどこか、どのような住居を持つか、どのような職業を割り当てられるか、特に大学について実質的に学校に行けるか否か、どれくらいの量の食料を得られるか、そして誰と結婚するかを決定する、最も重要な要因であった。この制度に基づく伝統的な差別は近年、市場経済への移行が進展するとともに、また、外貨を含む金銭が、国民の経済的、社会的及び文化的権利を実現する能力に及ぼす影響によって複雑化している。同時に、基本的な公共サービスが崩壊しているか、もしくは実質的に有償化していることから、国民の中の大きな割合を占めている、資産もなく、有利な出身成分も持たない層はますます取り残されていると感じるとともに、新たな形態の差別を受けている。

34 形式的な法的平等性の確保を目指した初期の改革によってもジェンダー平等は実現されなかった。女性に対する差別は、社会のすべての側面で横行している。実際のところ、悪化しているかのようである。なぜなら、男性が支配的な国家において,経済的に進出しつつある女性及び疎外されている女性の両方を食い物にしているからである。1990年代に飢餓を生き抜くため数多くの女性たちは私的な商売を始めた。しかし、国家は女性が支配的な市場に多くの制限を設けた。ジェンダー差別の別の形態としては、女性が賄賂や罰金の支払いにおいてターゲットとなっている。こうした取扱いに対し、女性たちが異議を唱え、抵抗を始めていることを示す証拠が最近明らかになっている。

35 女性の社会及び政治の面での進出は,女性の経済的進出に見合っていない。北朝鮮では、女性に対する伝統的な家父長的態度や暴力が根強く広がっている。国家は露骨にも、純粋で無垢な朝鮮女性というジェンダーの固定観念を維持しようとして、女性に対し差別的な制限を設けてきた。女性に対する性的暴力及びジェンダーに基づく暴力は、社会のすべての面で横行している。被害者には、国家からの保護、支援サービスはなく、裁判に訴えることもできない。政治分野では、女性は最高幹部のわずか5%、中央政府職員の10%を占めるに過ぎない。

36 女性差別は他のいくつもの人権侵害とも関係しており、女性は脆弱な立場に置かれている。食料の権利及び移動の自由に対する権利が侵害されているため、女性や少女は人身売買の被害を受けやすく、また、性的取引及び売春への従事が増加している。表現の自由及び結社の自由の完全否定は、男性に比して女性を一般的に不平等な地位に置くことを大きく助長している。こうした制限があるため、女性は他のどの国でもみられるような、集団で女性の権利を擁護していく動きができないのである。

37 あらゆる社会にはある程度の差別が存在するものの、北朝鮮が行っている公式な差別形態は、個人の人権享受に非常に大きな影響を及ぼしてきた。並外れた国家統制を背景に、こうした公式差別は国民生活のほとんどの側面に影響を与えている。差別は相変わらず、指導部が国内外の脅威を管理し続けるための主要な手段となっている。

C. 移動及び居住の自由の侵害

38 教化及び社会的階級を基礎にした差別の体制は、国民同士の接触及び外界との接触から国民を隔離する政策によって強化、保護されており、移動の自由に対する権利を全面的に侵害している。

39 北朝鮮においては、生活すべき場所及び働くべき場所を国家が強制し、国民の選択の自由を侵害している。さらに、国家が指定した居住地及び雇用の強制的な割り当ては多分に社会的階級を基礎にして行われる。これが、社会経済的及び物理的に隔離された社会を創り出してきた。指導部に対する政治的忠誠があるとみなされた人々は良好な場所で生活し、働くことができる。一方、政治的に疑いがあるとみなされた人々の家族は周縁地域に追いやられている。特別な地位にある平壌は、国家に最高の忠誠を誓った者のみに割り当てられ、この差別待遇制度を例証している。

40 国民は当局の許可がなければ、一時的に居住している道を出ることも、国内を旅行することもできない。社会及び家族の結び付きを犠牲にして、全く異なる複数の居住状況を維持し、情報の流れを制限し、国家統制を最大化したいという強い願望が、この政策を後押ししている。

41 平壌の「純粋」かつ穢れのないイメージを保つ試みとして、国家は組織的に、家族の 1

人が重大な犯罪又は政治的不正とみなされる行為を犯した場合、家族全員を平壌から追放する。同じ理由から、平壌やその他の都市に、主に食料を求めて隠れて移り住んだ多数のストリートチルドレンは逮捕され、強制的に故郷の道に送還される。戻っても世話をされることはなく強制的に施設に収容される。

42 北朝鮮は事実上、一般国民の海外旅行を完全に禁止している。このようにして、国を離れる権利が侵害されている。この禁止命令は、厳しい国境警備により執行されているが、国民は未だ、脱出の危険を冒している。脱出先は主に中国である。逮捕又は強制送還された場合、北朝鮮当局者が組織的に、迫害、拷問、長期間の恣意的な拘束を科し、時には度を超えたボディチェックなど性的暴力を加えることもある。妊娠している女性が送還された場合には必ず強制的に堕胎させられ、送還された女性から生まれた赤ちゃんは殺されることが多い。これらの慣行は、異なる人種の親との間に生まれた朝鮮人の子供に対する人種差別的な態度、及び国を出て中国人男性と接触したと想定される女性により重い処罰を科すとの意図に基づいて行われている。韓国当局者若しくは国民又はキリスト教会と接触したことが見つかった者は、おそらく強制的に政治犯収容所に「失踪」させられるか、一般収容所に収監される。また、即座に処刑されることさえある。

43 送還された者には深刻な人権侵害が待っているにもかかわらず、中国は、不法に国境を超えた北朝鮮国民を強制送還するという厳しい政策を維持している。中国は、こうした者は経済的(及び不法)移住者であるとの見方に従って、これを実行している。

しかし、国境を超えた北朝鮮国民の多くは、迫害から逃れた難民又は後発難民と認められるべきであり、その結果、国際的な保護を受ける資格を有する。中国もまた、北朝鮮国民を強制送還することで、国際難民法及び国際人権法下におけるノン・ルフールマンの原則を尊重する義務を怠っている。場合によっては、中国当局者が北朝鮮当局のカウンターパートに逮捕者に関する情報を提供していると思われる。

44 北朝鮮における女性に対する差別、その脆弱な立場、並びに追放及び送還の可能性のため、女性は人身売買の被害に非常に遭い易い。北朝鮮の多くの女性が、無理矢理結婚若しくは内縁関係にさせる、又は強制的に売春させる目的で、強制的あるいは騙されて北朝鮮から中国へ売られ、又は中国国内において売買されている。現在中国には、北朝鮮人女性の子供が 20000 人いると推定される。この子供たちは出生届、国籍、教育、医療の権利を剥奪されている。出生を登録することにより、母親が中国による追放及び送還のリスクに晒されるためである。

45 北朝鮮は繰り返し、他国、この場合は韓国と、特別なつながりを持つ国民、又は関係があると主張する国民が、韓国に戻るか、あるいは長く離散している家族に会うための便宜を享受する権利を尊重する義務を怠っている。韓国の親戚との接触及びコミュニケーションを阻止するために北朝鮮が実施している激しい妨害工作は、国際人権法下の国家の義務に違反している。こうした制限は、恣意的かつ冷酷であり、非人道的である。関係者が高齢になっていることを考え合わせると、特に、一度合意された離散家族の一時的な再会が全く説得力のない理由で中止された場合に顕著である。

D. 食料の権利及び生存権に関する侵害

46 北朝鮮の置かれている状況において、食料の権利、飢餓からの解放、及び生存権は、食料の不足や必需品へのアクセスといった狭い議論に収まらない。北朝鮮は国民を統制する道具として食料を使っている。当局が政治体制の存続に不可欠と考える者を、犠牲にしても構わないとみなされた者よりも優先する。

47 この論理に従って、困窮している者から食料を没収及び奪取し、他のグループに食料を供給している。国家は食料へのアクセス及び配給に関して、出身成分(songbun)を基礎にした差別を行っている。また、平壌など国内の一部の地域には特権を与えている。さらに、北朝鮮は最も脆弱な人々のニーズを考慮していない。調査委員会は特に、子供たちの継続的かつ慢性的な栄養失調状態及びその長期的な影響について懸念を抱いている。

48 北朝鮮は初めて国際援助を要請した1995年よりもかなり前から、国内の食料事情悪化を認識していた。国家が管理する食料の生産及び配給では、1980年代末から、既に十分な食料を国民に提供することができなくなっていた。透明性、説明責任及び民主主義的な制度の欠落、並びに表現、情報及び結社の自由に対する欠如が、党の命令に従わずに、最適な経済的解決策を採用することを妨げた。国家は国民に対する支配力を失う恐れから、経済及び農業の構造的な改革を避けてきた。

49 飢饉の間も、飢餓と窮乏の深刻な悪化という代償を払いながら、政治体制維持のために思想的な教化が行われた。情報の隠匿のため、国民は崩壊しゆく公共配給制度の代替策を見つけられなかった。情報の隠匿はまた、国際援助の遅れを招いた。情報が早く提供されていれば、多くの命が救われたはずである。国家は,国民に十分な食料を提供する能力がなかったにもかかわらず、国民による主要な対処メカニズムの利用、特に食料を探すための国内外の移動及び非公式の市場における取引や労働を犯罪とみなし、法律と効果的な支配を維持した。

50 最悪の大量飢餓の最中でさえ、北朝鮮は人道的配慮を欠いた条件を課し、食料援助の配給を妨げた。国際人道機関に人道的原則に矛盾する制約を課し,援助団体が人道上の必要性を適切に評価し、援助の配分を監視することを妨害した。北朝鮮は、ホームレスの子供たちを含む最も影響の大きい地域及びグループへの人道的アクセスを拒否した。

51 北朝鮮は、飢えた人々に食料を与えるために、入手可能な資源を最大限活用する義務を一貫して怠った。軍事支出、主に機械設備並びに兵器システム及び核プログラムの開発に係る支出が、大量飢餓の期間でさえ、常に優先された。それにもかかわらず、国家は未だ、過剰に大規模な軍隊の一般軍人を養うことができていない。最高指導者が直接管理するパラレルファンドを含む国家資金の大部分は、飢餓状態にある一般国民に食料を提供するのではなく、贅沢品や彼の個人的な趣味のために使われている。

52 また北朝鮮は拘禁施設において、支配と処罰の手段として故意に飢餓状態を利用してきている。その結果、多くの政治犯及び一般囚が死亡している。

53 調査委員会は、北朝鮮における食料の権利に対する組織的で広範かつ深刻な侵害の証拠を明らかにした。調査委員会は食料事情に関する国家のコントロールを超えた要因の影響は認めながらも、国家及びその指導部による決定、行動、怠慢が、最低でも数十万人の命を奪った原因であり、生き残った人々にも永久的な身体的及び精神的な損害を与えたとの見解に至った。

54 北朝鮮の高度に中央集権化した体制において、生産及び配給を含む食料に関する決定、国家予算の割り当て、人道援助に関する決定、及び国際援助の利用は、少数の当局者によって最終決定され、決定の影響を受ける者に対する説明責任もない。

55 1990年代以降、状況は変わってきてはいるが、飢餓と栄養不良は引き続き広範囲に及んでいる。飢餓による死亡も引き続き報告されている。調査委員会は、十分な食料の権利及び飢餓からの解放を侵害する法律及び政策を含む構造的な問題が依然として残っており、これが大量飢餓の繰り返しにつながることを危惧している。

E. 恣意拘禁、拷問、処刑及び収容所

56 北朝鮮の警察及び治安部隊は、深刻な人権侵害に相当しうる組織的な暴力と処罰を利用している。これは、現在の政府の体制やそれを支える思想に対するあらゆる反抗に対し先手を打って阻止すべく恐怖の雰囲気を醸成するためである。関係する当局及び当局者が責任を問われることはない。不処罰がまかり通っている。

57 拘束、処刑及び失踪に関わる北朝鮮における深刻な人権侵害の特徴は、大規模な治安組織のさまざまな部門を高度に中央集権化して調整することで実行されている点である。国家安全保衛部、人民保安部、及び朝鮮人民軍保衛司令部が、恒常的に人々を政治犯罪に問い、恣意的に逮捕し、その後外部との接触を断った状態で長期間拘束する。家族には安否も所在も知らされない。このため政治犯罪に問われた者は強制失踪の被害者となる。容疑者を失踪させることがこのシステムの計画的な特徴であり、国民に恐怖を植え付ける役割を果たしている。

58 拷問も、北朝鮮の尋問プロセス、特に政治犯罪に関わるケースにおいて認められる特徴である。容疑者に圧力をかけて自白させ、また他者を告発させるため、飢餓及びその他の非人道的な状態での拘束も意図的に行われている。

59 重大な政治犯罪に関わったことが判明した者は公判や司法による決定なしに、政治犯収容所(管理所)に「失踪」させられる。そこで監禁され、隔離される。死亡した場合でも家族にその安否が知らされることはない。過去には、連座制の原則に則り、近親者(祖先を含む三代まで)が犯した政治犯罪のために、当局によって家族全員が政治犯収容所に送られることが通常であった。現在もこのようなケースが起こってはいるが、過去に比べると減っているようである。

60 北朝鮮の政治犯収容所では、計画的な飢餓、強制労働、処刑、拷問、レイプ、並びに処罰、強制堕胎及び嬰児殺しによって執行される生殖に関する権利の否定を通じて、収容者は徐々に排除される。調査委員会は、この50年間に数十万人の政治犯が政治犯収容所で死亡したと推定している。政治犯収容所の収容者に対して行われた筆舌に尽くしがたい残虐な行為は、20世紀に設立された全体主義国家の収容所の恐ろしさと類似している。

61 北朝鮮当局は政治犯収容所の存在を否定しているが、元看守、収容者及び近隣住民の証言によって、この主張は虚偽であることが明らかとなった。衛星画像からも政治犯収容所制度が依然として運営されていることが証明されている。政治犯収容所及び収容者の数は死亡や一部釈放のため減っているが、現在も4カ所の大規模政治犯収容所に80000~120000人の政治犯が拘束されているとみられる。

62 深刻な侵害は、一般収容所制度においても行われている。これは、一般収容所(教化所)とさまざまなタイプの短期強制労働拘禁施設から成る。収容者の大多数は公判もなしに、又は国際法で定められた適正手続き及び公正な裁判の保障を尊重しない裁判に基づいて収容されており、恣意的な拘束の被害者となっている。さらに、多くの一般囚人は実際には政治犯であり、国際法に適合する実質的な理由なしに拘束されている。一般収容所の収容者は組織的に、計画的な飢餓及び不法な強制労働に晒されている。看守及び収容者仲間による拷問、レイプ、その他残虐行為が広く行われ、処罰を受けることもない。

63 国家政策として、当局は政治犯罪及び多くの場合重犯罪とは言えないその他犯罪に対し、公判の上又は公判なしに、公開又は秘密裏に処刑を行っている。公開処刑を定期的に実施する政策は、一般国民の中に恐怖を植え付ける役割を担っている。1990年代には公開処刑は非常に一般的だったが、現在も引き続き実施されている。2013年後半には、政治的な動機による公開処刑の件数が急増したようである。

F. 外国からの拉致及び強制失踪

64 1950年以降、北朝鮮は国家政策として大規模に、外国からの組織的な拉致、本国への送還の拒否、及びその後の結果としての強制失踪に携わってきた。子供を含む 200000人を大幅に超える人々が外国から北朝鮮に連れてこられ、「強制失踪からのすべての者の保護に関する宣言」で定義された強制失踪の被害者となっている可能性がある。被害者の人数をより正確に推定するためには、北朝鮮から情報が提供されなければならない。

65 他国と共に存続することを求める国にとって、他国の主権及び国際法下で保証された外国人の権利を無視した上述のような行動は例外的である。

66 拉致及び強制失踪の大部分が、朝鮮戦争及び1959年に始まった在日朝鮮人の帰還事業に関連している。ただし1960~1980年代に、韓国や日本、他の国々の数百人の人々も拉致及び強制失踪させられている。さらに近年では、北朝鮮は中国から多数の自国民と韓国人を拉致した。

67 北朝鮮は陸軍、海軍、諜報機関を拉致及び逮捕の実行に使った。作戦は最高指導者のレベルで承認された。被害者の大多数は北朝鮮の労働力及びその他国家のための技術力の獲得を目的として、強制的に失踪させられた。一部の被害者はスパイやテロ活動にも利用された。朝鮮人女性が異なる人種間の子供を生むようなことがないよう、ヨーロッパ、中東及びアジアから拉致された女性は他国の男性と強制的に結婚させられた。拉致被害者の女性の中には、性的搾取を受けた者もいる。

68 強制失踪者の中には自発的に北朝鮮に渡航した者も多い。物理的強制力又は騙されて拉致された者もいる。その結果、彼らは皆北朝鮮を離れる権利を否定された。さらに、自由及び北朝鮮国内の移動の自由も大幅に奪われ、法の下において人として認められる権利、及び拷問やその他残忍、非人道的又は名誉を傷つけるような処遇に晒されることのない権利も否定されている。全ての強制失踪者は、厳重な監視下に置かれている。教育及び雇用の機会も否定されている。

69 韓国や日本から北朝鮮によって強制失踪させられた朝鮮系の人々は、その素性及び背景に対して差別を受けている。「敵対階層」と分類され、北朝鮮辺境の炭鉱や農場で働かされた。社会的地位が低かったため、彼らの多くが1990年代の飢饉における最初の犠牲者となった可能性が高い。

70 非朝鮮系の拉致被害者は、厳重に管理された敷地内に拘束されていたため、北朝鮮の社会的及び経済的生活に溶け込むことはできなかった。働く権利、居住地を離れる権利又は地域社会を自由に移動する権利を否定され、自分もその子供たちも教育の機会を選択することができなかった。

71 外交的保護の発動にかかる権利を行使しようとする海外にいる被害者の家族及び被害者の母国である外国政府は、被害者の安否及び所在を確認するために必要な情報の提供を北朝鮮から一貫して拒否されている。強制失踪者の家族は、拷問やその他残忍、非人道的又は名誉を傷つけるような扱いを受けてきている。彼らは真実を知る権利を含む人権侵害に対する適正な救済の権利を否定されている。強制失踪者の両親及び失踪者である子供は、家族生活を営む権利を奪われている。

72 国家の工作員による日本人13名の拉致を認めたにもかかわらず、北朝鮮は国際的な拉致実行を行わなかったことに対する適切な説明ができずにいる。1990年代以降、北朝鮮の工作員は、中国籍、韓国籍、そして少なくとも一つの事案においては元日本国籍1名を含む多数の人々を拉致してきた。

73 調査委員会は、上述の被害者のほぼ全員が失踪したままであることを把握している。被害者及びその家族に対する人権侵害は続いている。このような仕打ちから受ける精神的打撃や苦痛は筆舌に尽くしがたい。

IV. 人道に対する罪

74 人権理事会決議22/13に従い、調査委員会は、特に、こうした人権侵害が「人道に対する罪」に相当する可能性に着目しながら、完全な説明責任を確保することを目的として、調査を実施した。調査委員会は裁判機関でも検察官でもない。調査委員会は個々の犯罪責任を最終決定する立場にない。しかしながら、判明した内容が、人道に対する罪が行われているとの確証に至る合理的根拠を構成し、管轄権を有する国内又は国際的な裁判機関による犯罪捜査に値するかどうかを決定することができる。

75 この基準に従い、調査委員会は、証言内容及びその他調査委員会が受け取った情報が、北朝鮮において、国家の最高レベルで決定した政策によって人道に対する罪が行われている確証となるとの結論を得た。

76 これら人道に対する罪は、皆殺し、殺人、奴隷、拷問、拘禁、レイプ、強制堕胎、その他性的暴力、政治、宗教、人種及び性別上の理由による迫害、国民の強制移動、強制失踪、並びに長期間の飢餓状態を原因とする故意の非人道的行為を伴っている。調査委員会はさらに、北朝鮮では、その本質において不処罰の政策、制度及び傾向が残っているため、人道に対する罪が現在も続いていると認識している。

77 北朝鮮の政治体制及び指導部にとって脅威になるとみなされた国民の中でも、政治犯収容所及びその他収容所の収容者、北朝鮮から逃げようとした者、キリスト教徒、並びに国家転覆の影響を及ぼすとみなされた者が、組織的で広範な攻撃の主な対象となっている。この攻撃は、社会的階級(songbun)を基礎にした差別的な国民の分類制度を含む、一般国民が体験する政治的動機による人権侵害のさらに大きな傾向に組み込まれている。

78 加えて、調査委員会は、特に1990年代において、飢餓状態にある国民に対して人道に対する罪が行われていたことを突き止めている。こうした罪は、食料の権利を侵害する決定及び政策から生まれた。このような決定や政策は、飢餓を悪化させ、国民の多くを死に至らしめることが完全に認識されながらも、現在の政治体制を持続させる目的で適用された。

79 最後に、調査委員会は、北朝鮮の労働力及びその他技術力の獲得を目的として、組織的に拉致された又は本国送還を拒否された外国人に対しても、人道に対する罪が行われていることを認識している。

V. 結論及び勧告

80 北朝鮮では、過去にも現在にも、国やその機関、当局者による組織的、広範かつ重大な人権侵害が存在する。調査委員会が人権侵害と認める事案の多くは、人道に対する罪に相当する。これらは、単なる国家の行き過ぎた行為ではない。国が根ざす理想からかけ離れた政治制度の不可欠な要素になっている。こうした侵害の重大性、規模、本質は、同国が現代世界に類をみない国家であることを露呈させている。20世紀の政治学者は、この種の政治組織を全体主義国家と特徴づけた。すなわち、一握りの人間による独裁支配に満足せず、そこから国民生活のあらゆる側面を支配し、国民を恐怖でねじふせようとする国家である。

81 北朝鮮は、全体主義国家としての多くの特質を示している。それは、1人が1党を支配するルールであり、現・最高指導者が「金日成主義-金正日主義」と呼ぶ、緻密な指導思想の上に成立している。北朝鮮は国民を子どもの頃から洗脳し、公式イデオロギーに疑問を呈するあらゆる政治的表現、宗教的表現を抑圧し、国民の移動、国内外の通信手段を厳しく制限することにより、この指導思想を植え付けようとする。性別や出身成分に根差す差別を利用し、政治制度への抵抗を生み出しにくい硬直化した社会構造を維持している。

82 国による食料調達の独占は、政治的忠誠心を強要する上で重要な手段となっている。

食料の分配は、さほど必要でないと目される国民の犠牲の上に、現在の政治制度の存続に有用な人間が優先されてきた。国民の国家への完全な依存は、近代史上、最大規模の一つとなる飢餓をもたらした。当局は最近になってようやく、市場を完全に押さえつけることはできないという事実を認めるようになった。しかし、北朝鮮は食料の権利を実現する改革を本格化させることはせず、非効率的な経済的生産と差別的な資源分配システムを維持している。そのため、必然的に防ぐことのできるさらなる飢餓を国民の間にもたらしている。

83 その政治システムは、監視、弾圧、恐怖、処罰を戦略的に用いることにより、いかなる反対意見の表明も排除する、巨大な政治・治安機構が鍵となっている。国民を脅し屈服させる究極の手段は、公開処刑や政治犯収容所による強制失踪である。国家による侵害が顕在化した例が、国家ぐるみの他国民の拉致及び強制失踪である。このように国をまたいだ強制失踪は、その深刻さ、規模、性質において他に類をみない。

84 今日、北朝鮮を取り巻く世界は、政治的、経済的、技術的に急激な変化を遂げている。

こうした変化が、国内の社会変化に次第に影響を及ぼし始めている。それに対応して、国外からの「破壊」分子の影響を取り締まるため、当局による深刻な人権侵害が行われている。こうした影響は、韓国や他国の映画、ドラマ、短波ラジオ放送、外国の携帯電話に象徴的である。同じ理由で、同国は暴力と処罰を用いて、国民の国外脱出の権利を阻止している。中国から本国に強制送還された国民は、拷問、恣意的拘禁、略式処刑、強制堕胎、その他の性的暴力の対象となるのが普通である。

85 調査委員会が報告した組織的、広範な侵害の多くは、長期にわたり、現在も進行中である。これは、国際法上の人道に対する罪の証拠として求められる高い基準に相当する。加害者は不処罰を享受している。北朝鮮は、加害者を起訴し、法の裁きの下に置くという国際的義務の履行に消極的であるが、それは加害者の行動が国策に則っているためである。

86 北朝鮮は国連の一員でありながら、数十年にわたり人道上の犯罪に絡む国策を推進してきたことは事実であり、国際社会の対応の不適切さが問題視されている。国際社会は、北朝鮮国民を人道に対する罪から保護する責任を負わなければならない。北朝鮮政府がその役割を負わないことは明らかなためである。特に、朝鮮半島の分断と朝鮮戦争という未解決の遺産により、国際社会(特に大国)が担う役割に応じて、この責任を果たさなければならない。このような不幸な遺産からは、人権状況の難しさだけでなく、なぜ有効な対策を取ることが喫緊であるかを知ることもできる。

87 国連は、北朝鮮で生じた人道に対する罪の首謀者に対し、説明責任を確実に負わせなければならない。この目的を達成するには、安全保障理事会による国際刑事裁判所への事態の付託や、国連による特別法廷の設置等の選択肢がある。説明責任確保のための緊急措置として、人権問題に関する対話を強化し、人的交流による変化の促進、和解に向けた南北間の協議を組み合わせていくべきである。

88 調査結果及び結論に基づき、調査委員会は以下のとおり勧告する。

89 調査委員会は、北朝鮮に対し以下を勧告する。

(a) 最高指導者と朝鮮労働党の権力の上に、真のチェック・アンド・バランスを導入するため、抜本的な政治改革と制度改革を遅滞なく実施すること。こうした変化には、独立した公正な司法、多党政治システム、真に自由で公正な選挙から選出された、地方、中央レベルの選出者から成る議会が含まれるべきである。人権侵害に関わる将校団をすべて査察し、朝鮮人民軍の任務を外患からの国の防衛に制限することにより、治安部門を改革すること。国家安全保衛部を解体し、透明で民主的な監視の下に社会安全省を設置すること。このプロセスを推進するため、北朝鮮社会で人望を得ているメンバーによる憲法・制度改革に関する独立委員会を編成し、国外から適当な専門家の支援を受けるべきである。

(b) 本報告書の中で調査委員会が記載している政治犯収容所も含めた、人権侵害の存在を認めること。国際的な人道支援団体や人権監視団体に対し、収容所への即時立入と生存する収容者への面会を許可すること。政治犯収容所を完全解体し、政治犯を全員釈放すること。また、追跡困難な失踪者の安否に関し、本格的解明を行うこと。

(c) 刑法及び刑事訴訟法を改正し、定義が曖昧な「反国家」罪、「反人民」罪を廃止し、「市民的及び政治的権利に関する国際規約」に明記された公正な裁判を受ける権利と適正手続の保障を十分に権利として認めること。尋問の手段として、拷問、その他の非人道的手段を講じることを禁じ、これを違法とする刑法及び刑事訴訟法の既存条項を履行すること。自由を奪われたすべての被収容者に対し、拘留の人道的条件が確保されるよう、一般的な刑務所制度を改革すること。連座制による報復を廃止すること。有罪判決を受けた犯罪者の家族を強制移住させる慣行を即時撤廃すること。

(d) 死刑判決及び死刑執行の即時中止を宣言し、実行すること。それに続き、遅滞なく、法律上及び実行上において死刑制度を廃止すること。

(e) 独立系新聞社及びその他メディアの創設を許可すること。他国の大衆文化を含め、インターネット、ソーシャルメディア、国際通信、外国放送及び出版物を国民が自由に利用できるようにすること。また、大衆組織や教化集会への強制参加を廃止すること。

(f) 国家、民族、政治的憎悪、戦争を賛美する、一切のプロパガンダや教育活動を廃止すること。

(g) キリスト教徒や他の宗教信者が、懲罰、報復、監視の不安なく、独立し、かつ公に信仰できるようにすること。

(h) 教育や雇用機会などの問題も含めて、政治的忠誠心や家族の社会政治的な背景の認識による国民差別をなくすこと。近隣住民による監視(人民班)、秘密住民登録ファイルシステム、政治弾圧の目的に資する、有効な司法的・民主的統制が働かない、人物及びその通信に対するあらゆる監視を撤廃すること。過去に実施した監視の範囲を公に認め、住民登録ファイルへのアクセスを国民に許可すること。

(i) 女性に対し、公的生活と雇用における平等な機会を提供するなど、ジェンダー平等を確保するための施策を速やかに講じること。女性に影響を及ぼす差別的な法、規則、実践を撤廃すること。家庭内暴力や、国家職員及び/又は、国家機関における性的暴力など、女性に対するあらゆる形態の暴力に対処する措置を講ずること。また、女性の売買に対する有効な措置を速やかに講じ、女性がそうした違法行為の被害を受けやすい構造的原因に対処すること。

(j) 国民が、食料やその他の経済的社会的権利を、差別なく享受できるよう確保すること。女性、ストリートチルドレン、高齢者、障がい者などの社会的弱者に特に配慮すること。民主主義への参加、グッドガバナンス、非差別を土台とした農業政策、経済政策、財政政策を促進すること。国民が生活の糧を得られるよう、自由な市場活動、対内・対外貿易、その他の独立した経済活動を法制化し、支援すること。

(k) 統治者、軍隊、治安機構の過去の支出に照らして、優先事項を整理し、利用可能な資源を提供することにより、必要に応じて、軍役に就く者も含めて、国民を飢餓から救い、国民にとってその他の最低限度の基準を確保できるようにすること。

(l) 食料への権利の保障上、必要な場合、遅滞なく国際的な人道支援を求めること。

国際的な人道支援機関が、有効なモニタリング目的も含めて、支援を必要とするすべての国民に自由にアクセスできるようにすること。また、不適当な目的のため、人道支援を違法に転用する国家職員に対し、説明責任を負わせること。

(m) 一般国民に対する事実上の海外渡航禁止を撤廃すること。越境行為の違法規定を撤廃し、国際基準に合った国境管理を導入すること。国境での射殺命令を撤廃すること。中国から本国に送還された国民を政治犯とみなさないこと。また、それらの国民に対する投獄、処刑、拷問、恣意的拘禁、計画的飢餓、違法な体腔捜査、強制堕胎、その他の性的暴力をやめること。国家による居所と雇用の強制指定、居住地域外への国内旅行の許可制を撤廃すること。

(n) 拉致その他の手段による強制失踪者のすべての家族及び母国に対して、これらの人々の安否情報、また、生存している場合にはその所在に関する完全な情報を提供すること。生存者及びその子の母国帰還を速やかに許可すること。家族及び母国との連絡を密にし、死亡者の物理的な遺骨等を特定し、送還すること。

(o) 国民が望む場所に旅行し、移住できるようにするなどして、離散家族の再会を実現させること。当事者らに対し、手紙、電話、Eメール、その他の通信手段による、監視のない通信のための機器をすぐに提供すること。

(p) 人道に対する罪の首謀者とされる者を訴え、法の裁きの下に置くこと。このプロセスを監督する特別検察官を任命すること。被害者とその家族に対し、人権侵害に関する真相を知らせるなど、十分で迅速かつ有効な補償と救済を確実に提供すること。人権侵害に関する真相を立証するための、国民主導のプロセスを確立すること。成人及び未成年児童に対し、人権及び民主的統治に関する国内外の法令や実践につき、総合教育を提供すること。移行期の司法措置に関し、国際社会から助言と支援を求めること。

(q) 本報告書において調査委員会が提起し、また、国連総会及び人権理事会の一連の決議、普遍的定期的レビューの手続き、特別手続マンデート保持者や条約体の報告書で提起されたあらゆる人権侵害に関し、これを即時中止し、人権問題の懸念に対処するあらゆる措置を講ずること。

(r) 「強制的な失踪からのすべての人々の保護に関する宣言」、「障がい者の権利に関する条約」、「国際刑事裁判所に関するローマ規程」、国際労働機関の基本的条約を遅滞なく批准すること。

(s) 上述の勧告の履行を促進するため、国連人権高等弁務官事務所や他の関係国連機関のフィールドプレゼンス、技術支援を速やかに受け入れること。

90 調査委員会は、中国及び他国に対して、以下のとおり勧告する。

(a) ノン・ルフールマン原則を尊重し、これに基づき、国際的人権監視団体により北朝鮮での処遇に明らかな改善が認められない限り、北朝鮮に対するいかなる者の強制送還も差し控えること。庇護や他の永続的保護の手段を、国際的な保護を必要とする脱北者に拡大すること。こうした人々が完全に平等に扱われ、差別から正当に保護されるよう確保すること。中国国内に居住する北朝鮮国民の活動や連絡先に関する情報を、北朝鮮国家安全保衛部及び他の治安機関に提供しないこと。

国籍付与や他の保護措置を与えようとする他国の外交官、領事代表機関に対し、北朝鮮国民が自由に接触できるようにすること。

(b) 国連難民高等弁務官及び関連人道機関に対し、接触を求めるすべての北朝鮮国民が完全に、自由に接触できるようにすること。

(c) 国際難民法が定める義務が遂行されるよう、国連からの技術支援を要請すること。

また人身売買の有効な対策を確保すること。

(d) 被害者に当該国内にとどまる権利の提供、法的保護、基本的サービスへのアクセス提供を含め、自国民に提供するものと同等の医療的処置、教育機会、雇用機会など、被害者中心、人権重視のアプローチを採ること。

(e) 中国国民と結婚し、子どもをもうけている脱北者の地位を法で保護すること。こうして生まれた子どもが、出生登録、可能な場合は中国国籍を得て、差別なく教育及び福祉の権利を得られるよう確保すること。

(f) 北朝鮮当局員が、中国国土からさらなる拉致を実行できないよう、即時の対策を講じること。逮捕された拉致加害者を起訴し、適切に処罰すること。また、法に則った裁判が行われるよう、当該命令を発した者の引き渡しを求めること。中国は、北朝鮮の最高指導者、他のハイレベル当局者に対し、拉致問題、中国国籍の権利を有する子どもの殺害、送還女性に対する強制堕胎、中国からの送還者を標的とした他の人権侵害の問題を提起すべきである。

91 調査委員会は、朝鮮人民が南北間の対話を進め、段階的に和解に向けたスケジュールにつながるよう勧告する。南北朝鮮の対話は、友好的なスポーツイベント、学術交流やビジネス交流、北朝鮮からの若者に対する奨学金制度や職能訓練制度、学生交流、国内の赤十字社などによる市民社会団体の交流、専門組織や女性団体の交流、姉妹都市関係の発展、そして最終的には、輸送と通信手段の再建といったイニシアチブによっていっそう促進され得る。

92 調査委員会は、文化、科学、スポーツ、グッドガバナンス、経済発展などの分野で、各国、及び市民団体が人と人との対話と交流を深める機会を提供するよう勧告する。

このことが北朝鮮市民に、情報の交換と、外の世界を知る機会を提供するのである。

北朝鮮及び他の各国は、人と人との交流を阻む障がいを取り除くべきである。これには、国際人権法の定める関連義務を無視した、旅行や人との接触を処罰する措置を取り除くことが含まれる。

93 また、調査委員会は、北朝鮮の人権状況を改善するため、各国、財団及び関連企業が、人権侵害の記録や、それぞれの国内の情報を放送するなど、市民団体の活動の支援を強化することも勧告する。最終的には、該当する状況とみなされれば、そのような財団や企業は、国家の発展、国民生活の創造、人権状況の前進に向けた計画を一貫して推進する取り組みを行う中で、関係政府の力となるべきである。

94 国際社会及び国連に関しては、調査委員会は以下のとおり勧告する。

(a) 安全保障理事会は、国際刑事裁判所がその司法管轄に従って手続きをとるよう、北朝鮮の事態を同裁判所に付託すべきである。また、安全保障理事会は、人道に対する罪の首謀者とされる者に対象を絞った、制裁を承認すべきである。一般国民の社会状況、経済状況が苦境に瀕していることに鑑み、調査委員会は、北朝鮮国民、あるいは北朝鮮経済全体を標的とした安全保障理事会が課す制裁や2国間の制裁を支持しない。

(b) 国連総会と人権理事会は、調査委員会の設置に先立ち、北朝鮮に関する特別な人権監視・報告メカニズムを拡大すべきである。これらは、事務総長及び国連人権高等弁務官の定期的レポート、北朝鮮人権状況特別報告者のマンデートを含む。

そのようなメカニズムは、特に人道に対する罪に対し、説明責任の確保に重きを置いたマンデートが付与され、調査委員会の勧告履行状況に関する報告を行うべきである。

(c) 国連人権高等弁務官は、人権理事会と国連総会の全面的な支援を受け、北朝鮮における人権侵害、特にこうした侵害が人道に対する罪に相当するであろう場合の説明責任の確保に資する機構を構築すべきである。この機構は、当該犯罪について収集された証拠及び文書に基づくものであるべきである。当該組織は現地に適当なスタッフを派遣することにより、被害者や目撃者に対する持続的な接触を実現すべきである。人権報告メカニズムに関する情報提供や、関係者による提供情報の安全なアーカイブを提供するほか、こうした組織の業務は、人道犯罪の首謀者を国連が起訴し、説明責任を負わせる際にも有用となろう。

(d) 国連人権高等弁務官は、技術支援を行い、積極的な政策提言を行いつつ、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)による北朝鮮への関与を継続させるべきである。

国連人権高等弁務官は、特別報告者による戦略の実行を支援し、国連システムのあらゆる関係の人権メカニズムを関与させ、一貫して遅滞なく、国際的な拉致問題、強制失踪、本報告書に記載される関連事項に取り組むべきである。加盟国は、こうした戦略が確実に実行されるよう、十分な協力をすべきである。

(e) 国連人権高等弁務官は、本報告書に盛り込まれた調査委員会の勧告の履行に関して、人権理事会及び他の適切な国連機関に対し定期的に報告すべきである。

(f) 人権理事会は、調査委員会の結論及び勧告が、国際社会から絶えず注目を集めるよう確保すべきである。かつて多くの苦難が生まれ、今もなお生まれ続けており、行動を起こすことは国際社会全体が負うべき責任である。

(g) 国連事務局及び各機関は、北朝鮮と関わるすべての者が、調査委員会がまとめた報告書の内容を含めて、人権問題に効果的に取り組み、対処できるよう、共通の「Rights Up Front」戦略を緊急採択し、実施すべきである。国連は、北朝鮮におけるこの人道に対する罪の再発防止支援戦略を速やかに開始すべきである。この戦略は、事務総長が安全保障理事会に事態を付託する可能性を想定すべきである。

(h) 北朝鮮と歴史的に友好な関係を有している各国、主要ドナー国及び潜在的なドナー国、並びに六者会合の枠組みの中で既に北朝鮮と関わりを持っている各国は、北朝鮮における人権状況についての懸念を提起し、また状況改善のための実効的なイニシアチブへの支援を提供するため、人権コンタクトグループを形成すべきである。

(i) 各国は、北朝鮮に対する経済的圧力、政治的圧力を加えるために、食料の供給や他の基本的な人道支援を利用すべきではない。人道支援は、非差別原則など、人道と人権の原則に則って行われるべきである。支援は、無制限の国際的人道支援や関連のモニタリングが十分に保障されない場合に限り、抑制されるべきである。

2国間及び多国間のドナーは協力し、人道的アクセスと関連のモニタリングの適切な条件が北朝鮮によって提供されるよう確保すべきである。

(j) 北朝鮮が負う国際法の下のすべての責任の履行義務を損なうことなく、国連と朝鮮戦争の当事国が、ハイレベルの政治会合を招集するための手段を講じるべきである。この会合の出席者が検討し、同意を得られれば、人権と基本的自由への尊重を含め、すべての当事者に国連憲章の原則をコミットさせる戦争の最終的な平和合意を承認すべきである。地域の各国は協力を強化し、ヘルシンキ・プロセスの例にならうことを検討すべきである。

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