冬から春にかけて降水・降雪が少なく、日照りが深刻になる一方で、田植えの季節になれば菜種梅雨がやってきて、乾いた田畑に恵みの雨となる。梅雨の降水量は少なく、夏はさほどジメジメせず、エアコンなしでも暮らせるほど清涼――昔の朝鮮半島の気候はそんなものだったが、この数十年で大きく変化した。
韓国メディアから冷害という言葉が消え、1990年代中盤からはゲリラ豪雨、一昨年からは線状降水帯という言葉が頻繁に使われるほど、降水量が増加した。また、春の日照りはいっそう深刻になり、山火事が多発。山から出た火が人家を飲み込む様子が生中継されたりもする。
そのあたりの状況は、北朝鮮メディアでも似通っている。春には「農作物を日照りから守ろう」、梅雨から秋にかけては「雨から守ろう」というキャンペーンが繰り返される。だが、深刻な被害を免れず、野菜の供給にも支障をきたす事態となっている。
(参考記事:大雨が降るたびに被害を受ける北朝鮮の農地)平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋によると、日照りと大雨で野菜が不作となり、平壌市民への野菜の配給が中断された。
今年の北朝鮮では、4月から6月にかけて深刻な日照りとなった。灌漑施設が整っておらず、ダメージをまともに食らったのだ。さらに、コロナ鎖国による肥料や農機具の不足、移動制限による働き手の動員の不振などが重なった。
(参考記事:金正恩氏が重視する麦、収穫遅延の理由は「鎌」の不足)人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面
その後は、度々深刻な被害をもたらす大雨が降り、ジャガイモや麦などが深刻な被害を受けたが、野菜にも影響が広がっているようだ。
(参考記事:大雨に猛暑で深刻な北朝鮮のジャガイモ不作、収穫放棄地も)これを受けて、朝鮮労働党平安南道委員会は、道内の協同農場と農家を対象に、野菜の買い付けを集中的に行っている。これは、平安南道の住民から野菜を奪って、特権層である平壌市民に届けているのに他ならない。ただ、対象地域を黄海北道(ファンヘブクト)、黄海南道(ファンヘナムド)まで広げたものの、野菜不足の解消には至っていないという。
金正恩総書記は、2020年6月の朝鮮労働党中央委員会第7期第13回政治局会議で、平壌市民の生活保障において早急に解決すべき問題について指摘。生活環境の改善、水道水、野菜の円滑な供給など行うという「重大決定」が、その後の内閣拡大会議で下されたが、平壌での野菜不足が続けば、何らかの措置が行われる可能性が考えられる。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面だが、より食糧事情が深刻で、食べ物が底をついた絶糧世帯が続出している地方を犠牲にして、平壌市民ばかりを優先するやり方に、地方の不満が高まりつつあると伝えられている。
(参考記事:「半数の世帯で食べ物がない」北朝鮮から聞こえてきた断末魔)