人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面

日本は、朝鮮半島を植民地支配下に置いていた当時、相対的に温暖な南部は農業、寒冷で農業に不向きながら地下資源は豊富な北部は工業に重点を置く開発政策を取っていた。これを「北工南農」と言う。そのような棲み分けは、南北が分断されたことで不可能となり、それぞれが自らの領域内で工業と農業の両方に力を入れるようになった。

韓国の朴正煕大統領は1965年の年頭教書で、任期内の食糧自給達成を目標にすると述べ、農業生産の増大を図り、ある程度は成功した。しかし、その後の食生活の変化や、韓国がGDPで世界10位の経済大国となったことで、必ずしも食糧を自給する必要がなくなり、2021年の食糧自給率は44.4%にとどまっている。

一方の北朝鮮の食糧自給率は、虚偽報告で誇張されている可能性が高いものの9割以上に達していると言われている。しかし、2021年の生産量を見ると、コメが215万6000トンに対し、救荒植物であるトウモロコシが158万7000トン。質よりも量が重要視されている。これをコメと小麦を主とする構造に変えて、国民の食生活を向上させるというのが、金正恩総書記が打ち出した方針だった。

しかし、2022年の北朝鮮農業は、著しい凶作となった。金正恩氏は引き続き農業に力を入れる方針を示しているが、そのしわ寄せは現場に行く。韓国デイリーNK編集部は、穀倉地帯の黄海南道(ファンヘナムド)に住む農民に、その現状を聞いた。

(参考記事:北朝鮮で深刻な少雨、麦畑は全滅直前

ー 北朝鮮は今年も農業重視を強調しているが、協同農場での作業はどのようなものか。

人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面

年初から、黄海南道農村経理委員会のみならず、市や郡の農村経営委員会の担当者が各農場に派遣されている。昨年、協同農場の農場員に対して、指導機関のメンバーよりも早く田畑に出て、彼らより遅くまで働けとの指示が下されている。

私たちの日課はこのような感じだ。朝4時に起床、家や畜舎から堆肥を集め、牛車に載せて5時までに畑に運ぶ。5時半に一度帰宅し、洗面と家の掃除をしてから朝食となる。7時までに作業班室に出勤して、読報(労働新聞を読む集まり)をした後、技術指導員や管理委員会の指示事項を聞き、7時40分に畑に出る。

土と堆肥をよく混ぜて平らにしたら、かますの土をかぶせ、土壌を入れ替える畑に運ぶ。このような作業を続ける。今年はくず鉄や古紙の収買計画(供出ノルマ)が昨年より減らされた。本来の革命課業(農業)に集中せよというのが、(朝鮮労働)党からの要請だそうだ。

(参考記事:市場でくず鉄を買って供出する北朝鮮の奇妙な「リサイクル運動」

人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面

ー 年初から忙しそうだが、農民の間に不満は?

朝早くに起こされ、夜遅くまで働かされるのが不満だ。以前なら午後6時か7時には帰宅できたが、今は黄海南道の農民の場合、無条件で午後8時まで田畑やあぜ道の補修、または畜舎の糞集めなどをさせられる。仕事がなければ、作業班室に隠れて油を売っている。これでは意味がない。

ー 年初の恒例行事である「堆肥戦闘」に人々が総動員されているが、現場の役に立たっている

人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面

農場には年初から、堆肥戦闘で動員された多くの人がやってくる。畑の面積より人が多いほどで黒山の人だかりとなる。しかし、あれこれ堆肥を比べてみると、質は低い。9割が土で、人糞が1割しか混ざっていない。「やってる感」を出しただけのものもあり、畑に害になるので捨てる他にない。

(参考記事:「商売せずに堆肥つくれ」命令に抵抗する北朝鮮の商人たち

ー 昨年の作況は?

2019年の作況を基準にして今年のすべての農業計画を立てると黄海南道は言っている。(昨年の作況は)2019年にはるかに及ばず、2021年と同じくらいだった。小麦、大麦、トウモロコシの(昨年の)収穫量は、2021年と比べてもひどかった。黄海南道は稲作がうまくいったので、他の作物が凶作でも批判をかわすことができた。

(参考記事:金正恩「34人を大量粛清」農業不振と食糧難で

ー 今年の農業の見通しは?

春の田植え、初夏の草取り、秋の収穫のときの労働力、それからビニール膜や農機具、灌漑用水、電気が円滑に供給されるか否かがキーになる。労働力と肥料、水が供給されれば大豊作になると思うが、容易ではないだろう。昨年の田植え戦闘のときには、全国で悪性伝染病(新型コロナウイルス)が広がり、国家非常状態となって、農場員と軍人が総動員で田植えをしても、冷床苗代から苗を適時に田んぼに移せなかった。

ー 農業生産性を高めるための国からの指示は?

黄海南道は(国家経済発展)5カ年計画の期間中に、コメ高地占領(目標収穫量達成)の命令を受けているので、農村支援を積極的にせよと言っている。そのせいで、都市部に住む人の負担が大きいと聞いている。鎌、鍬、斧などの農機具供給から始まって、農村を集中的に支援せよとの方針が下されているのが、普段とは異なる。農場員の手袋や作業服、靴下、洗面道具まで持ってきてくれて、農村を支援してくれている。

ー 農業がうまくいくにはどのような改善が必要か?

機械化の話がよく出るが、それだけでは足りない。機械ばかり送り込んできても、燃料は自主調達しなければならない。この問題を解決しなければならない。肥料、ビニール膜、灌漑設備、農耕用の牛、農機具は毎年整備し、補給しなければ仕事の能率が上がらない。肥料なくしては質のいい作物はできないし、牛1頭は人10人にも勝る。

(参考記事:「牛が人より大切なのか」北朝鮮農民の悲嘆

天気予報も精度を上げてほしい。他の国でも同じような天候、気候条件で農業をしているはずだが、外国の先進的な農業をわが国(北朝鮮)の実情に合わせて取り入れてほしい。国は、食糧問題が解決すれば他の国など羨むことはないと強調しているが、もし解決できれば、今度は土ばかり見ているのではなく、収入も増やしたいと思う。

ー 農民として新年の願いは?

農村革命綱領が新たに出され、黄海南道に集中的に投資するというのが党の政策だ。現地では、一番つらい時期になりそうだと言われている。農民をこき使うのではなく、そもそも耕作面積が限られているわが国の実情に合わせた新たな農法の導入を望んでいる。それで、朝はゆっくり出勤して、早く家に帰れるようになりたい。

そして、農場員とその子どもたちを永遠に農村に縛り付けておくのではなく、工場の労働者になったり都会に出たりできるようになればいい。都市と農村の人を大々的に入れ替えてほしい。自分は農場員だから仕方ないが、子どもたちは仕事が選べるような国になってほしい。

(参考記事:「身分ロンダリング」で子どもを都会に送り出す北朝鮮の親心