北朝鮮は、日本や中国と並んで「戸籍」が存在する世界的に稀な国だ。すべての国民は都市戸籍と農村戸籍に分けられ、特別な理由がない限り、農村から都市への移動は認めず、職業も親から引き継ぐことになっている。

そんな北朝鮮で、農村を捨てて都会へ向かおうとする流れが起きつつある。一時的な出稼ぎに行くだけの人もいれば、「身分ロンダリング」で都市民に化けようするとする人もいる。

(参考記事:「おらこんな村いやだ」と故郷を捨てる北朝鮮の農民たち

平安南道(ピョンアンナムド)の情報筋によると、協同農場を去って都会に出稼ぎに行く農民が増え始めたのは数年前のことだが、最近になってそんな人が子どもを都会に呼び寄せるケースも増えているという。

都会で働き都会の良さを知った親が、自分の子どもを呼び寄せ、都市戸籍を持つ知人宅に偽装登録させ、都市住民に「身分ロンダリング」するというのだ。そのために、学校や保安署(警察署)などの幹部に多額のワイロを掴ませる。

「農民は、自分の子どもの身分を変えることが人生で最も重要なことと考えている」と語った情報筋は、殷山(ウンサン)郡の済賢里(チェヒョンリ)協同農場で働く農民夫婦の例を挙げた。

この夫婦は、夏休みを控えた中学生の娘を温泉(オンチョン)郡の外貨稼ぎ水産基地に出稼ぎに行かせた。それも基地長に「給料は要らないから、基地の近所の学校を通わせて卒業させて、都市の労働者として登録させてやってくれ」という破格の条件だ。

首都・平壌に住むなら5000ドル(約55万3000円)、平壌郊外にある平城(ピョンソン)に住むなら平均1500ドル(約16万6000円)のワイロが必要となるが、それと比べるとかなりオトクと言えよう。

(参考記事:高額で取引される北朝鮮の「都会に住む権利」

両方の地域とも農村地帯であることに変わりないが、殷山郡が単なる農村であるのに対して、温泉郡は南浦(ナンポ)市に属しており都会扱いだ。北朝鮮は国内移動の自由がない国だが、同じ市内なら問題なく移動できる。教育を受けるにも商売をするにも申し分のない立地条件だ。

非常に豊かな平壌に住もうにも、上述の通りワイロが高く、いつ追放されるかわからない。そんなリスクを考えたら、平壌に比較的近い都会に住む方が確実と考えるのだろう。

(参考記事:北朝鮮、平壌追放令を連発、強引に「口減らし」か

「今まで北朝鮮では『農村陣地を大隊で守れ』という労働党の指示を掲げ、農民が都会に出られないに構造的に遮断してきたが、都会に出稼ぎに行く人が続出している」(情報筋)

当局は都会で農民を見つけて農村に送り返す作戦を定期的に行っているが、このようなやり方に反発の声が上がっている。ある人は、兵役に行った息子に「除隊後に炭鉱に行ったとしても農村よりマシだ、農村に帰ってきて苦労することはない」とアドバイスしたという。

都会に住めば市場で商売ができるので現金収入が得られるが、農村ではそれも難しい。1年間苦労して収穫にこぎつけても、まともに分配がもらえない有様だ。

(参考記事:北朝鮮の農民を苦境に追い込んだ「農業改革」の逆効果

情報筋は「封建時代のように、親が幹部なら息子も幹部、親が農民なら息子も農民になるという身分制度は、北朝鮮にしか残っていないはずだ。この国で最も早く解決されるべき問題は、出身成分で人を評価し、将来を台無しにする制度を廃止することだ」と強調した。