北朝鮮で牛は農耕用に使われるため、生産手段とみなされ、個人が所有することや食用にすることが禁じられている。
牛を盗んで食べたという理由だけで処刑される人もいるほどだ。人間よりも牛の方が大切にされていると言っても過言ではないだろう。実際、食糧配給においてもそれが現れている。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。
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両江道(リャンガンド)の農民情報筋は、金正淑(キムジョンスク)郡の院洞里(ウォンドンリ)協同農場で12月21日、牛のエサの配給があったと伝えた。その量は、牛1頭あたりトウモロコシ100キロ。
郡内には22の協同農場があり、4から6の作業班、その下には5から6の分組があるが、分組ごとに3頭から6頭の牛を飼育している。1つの共同農場には概ね100頭の牛がいるが、情報筋が働く院洞里協同農場の農事1班4分組には、5頭の牛がいる。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面配給されたトウモロコシは牛管理工(飼育担当者)が受け取った。かつては農場全体で面倒を見ていたが、1990年代後半の大飢饉「苦難の行軍」のころに牛泥棒が横行したため、個々の農民に飼育を任せるようになり、エサとは別に穀物100日分を報酬として受け取る。
その報酬が今月第3週に配られたが、定められた量の半分しかもらえなかったとのことだ。極度の凶作で、穀物収穫量が計画(ノルマ)を大きく下回ったからだ。
(参考記事:凶作続きの北朝鮮農業、打開策は「ホラ防止法」)事情は、首都・平壌に近い平安南道(ピョンアンナムド)でも同様だ。現地の情報筋は、孟山(メンサン)郡の協同農場の農民には、定められた量の半分の穀物しか配られなかったと伝えた。一方で、牛に対しては規定量通りの1頭100キロのトウモロコシが支給されたことで、農民からはこんな声が上がっている。
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「牛が人より大切なのか」
苦難の行軍以降、そのエサが支給されなくなったため、草の生えない冬になると、牛管理工は駅前や市場に牛をつれていき、荷物を運ばせて手間賃を受け取り、エサや蹄鉄を買って育てていたとのことだ。
そして、人々が飢えに苦しみ、中には命を落とす人が出るほどの食糧難の今年、急にトウモロコシの支給が復活したのだ。当局の思惑について情報筋は次のように見ている。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面「苦難の行軍以降、初めて農場の牛に穀物とトウモロコシの茎がエサとして支給されたのは、牛を農作業に総動員して食糧生産を増やそうとする意図のようだが、実際に牛のおかげで増産が実現するかは見守るしかない」
実際、牛の飼育状況が悪かったり、数が足りなかったりして、農作業に影響が出ていると伝えられている。当局のやり方が決して的外れというわけではないが、それも人を優先してこそのこと。自分たちは食べるものがなくやせ細っているというのに、牛はまるまると太っている。農民の胸中は決して穏やかでないだろう。
(参考記事:「牛が足りない」北朝鮮のトウモロコシが壊滅的不作)