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北朝鮮では、毎年春から初夏にかけて春窮期に突入する。前年の収穫の蓄えが底をつき、人々が飢餓に苦しむ時期だ。合法、非合法の貿易や国内の商業活動が盛んに行われていた数年前なら、市場で食べ物を買い求め、乗り切ることもできた。しかし、コロナ以降に状況は一変した。

政府が国境を封鎖し、貿易を停止させたために、食糧や農業に必要な物品などが外国から入ってこなくなり、この時期の食糧不足がより深刻化したのだ。そして上昇傾向にある穀物価格が、人々をさらなる飢えへと追いやっている。

韓国デイリーNKが行っている定期物価調査によると、今月1日の時点で、コメは平壌で5100北朝鮮ウォン、新義州(シニジュ)で5300北朝鮮ウォン、恵山(ヘサン)5500北朝鮮ウォンで取引されている。(※いずれも1キロの価格、1000北朝鮮ウォンは約20円。以下同)

コメ価格は先月初旬に5000ウォンを突破して以降、高止まりしている。

また、コメの重要な代用品でもあるトウモロコシも、平壌2700ウォン、新義州2800ウォン、恵山2850ウォンで、2000ウォン台後半で高止まりしている。

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コロナ鎖国に入った2020年、その翌年の春季(3月初旬〜5月初旬)の穀物価格と比較すると、今年が最も高い。2020年春にはコメ1キロの価格が、平壌4700ウォン、新義州4680ウォン、恵山4991ウォン、2021年春には平壌3720ウォン、新義州3890ウォン、恵山4200ウォンだった。

また、トウモロコシ価格を見ると、2020年春には平壌1413ウォン、新義州1365ウォン、恵山1600ウォン、2021年春には平壌2280ウォン、新義州2300ウォン、恵山2480ウォンだった。

昨年だけコメ価格が下がっているのは、穀物販売の主導権を市場から国家に取り戻し、価格安定を図るために食糧販売所が新設された影響があると思われる。当初からその先行きに否定的な見方が示されていたが、「貧者のコメ」であるトウモロコシの価格安定には失敗、コメ価格に関しても、安定させる効果は長続きしなかったようだ。

(参考記事:金正恩氏の肝いり「国営米屋」、オープン直後から経営難航

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食糧不足と高値により、都市・農村を問わず餓死者を出すほどの状況になっているが、人々はジャガイモや麦の収穫が始まる初夏まで耐えるしかないようだ。

「人民班(町内会)は、6月にジャガイモが出回り始めればコメ価格が下るだろうから、それまで何とか耐えようと言っている。ジャガイモが庶民に少しでも配給されるか、それによりコメやトウモロコシの価格が下がるかを見守っている」(デイリーNK内部情報筋)

(参考記事:【北朝鮮国民インタビュー】食糧の尽きた地方で続出する餓死者

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ジャガイモはともかく、麦に関してはあまり期待できそうにない。気象水文局(気象庁)は4月の気温が平年より2.3度高く、降水量が平年の44%にとどまったと明らかにしている。これにより、麦が深刻なダメージを受けている。

(参考記事:北朝鮮で深刻な少雨、麦畑は全滅直前

なお、北朝鮮の金正恩総書記は昨年9月の最高人民会議第14期第5回会議の施政演説で、次のように述べている。

農作物の配置を大胆に変えて稲作と小麦、大麦の栽培に方向転換をするという構想を明らかにし、全国的に水稲と陸稲の栽培面積を増やし、小麦、大麦の播種面積を二倍以上に保障し、ヘクタール当たりの収量を高めて人民に白米と小麦粉を保障して食生活を文化的に改善することのできる条件を整えなければならない。

(参考記事:「米国の対話申し出は欺まん」金正恩氏、最高人民会議で演説

一時的な救荒食物であるはずのトウモロコシの栽培が常態化していたが、これを麦へと切り替え、さらなる増産を図り、農業においても「普通の国」になろうとする大々的な方針転換だ。ただ、その先行きは暗い。まず、中国でのコロナ感染拡大により、限定的ながら再開されていた貿易が止まってしまい、増産に欠かせない肥料の確保が難しい状況となっている。

それ以前に、北朝鮮の農業は構造的に問題を抱えており、解決は容易ではない。「人民が白米を食べて肉のスープを飲み、絹の服を着て瓦屋根の家に住めるようにしなければならない」という金日成主席の言葉が現実になるのは、まだまだ先のことだろう。

(参考記事:毎年凶作の北朝鮮農業、何が問題なのか?