北朝鮮の首都・平壌のマンション建設現場で資材が地上に落下する事故が起き、巻き込まれた兵士2人が死亡したと、平壌のデイリーNK内部情報筋が伝えた。
事故が起きたのは先月初めごろのこと。市内中心部から北東に15キロほど離れた龍城(リョンソン)区域のマンション建設現場で、クレーンが型枠、添え木、かすがい、パイプを上層階に運び上げる作業を行っていたところ、途中でロープが解けてしまった。
地上には、マンションの建設に当たっていた人民内務軍8総局の兵士2人がいたが、彼らを直撃し、2人共即死した。
このマンションは昨年から工事が始まったが、経済制裁によるものと思われる資材不足で工事が遅々として進まず、当局が完成を急ぐよう指示を出していた。
「安全措置を充分に行わず、速度戦で行っていたことで起きた(事故ではなく)事件」だと情報筋は解説した。北朝鮮では、このような事故が多発している。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面北朝鮮の首都・平壌には近年、倉田(チャンジョン)通り、未来科学者通り、黎明(リョミョン)通りといったタワーマンション団地が造成された。いずれも金正恩党委員長の肝いりのプロジェクトで、「金正恩時代」を象徴するランドマークとなっている。しかしこれらの建設工事に携わった元朝鮮人民軍兵士によれば、現場では兵士や労働者の墜落事故が頻発したという。
(参考記事:金正恩氏、日本を超えるタワーマンション建設…でもトイレ最悪で死者続出)
速度戦とは、簡単に言うと突貫工事のことだ。指導者の記念日などに完成日を設定し、無理やり工事を進めて成果だけを追求する。このせいで、手抜き工事や事故が相次ぐのだ。速度戦について、元高級幹部の脱北者はデイリーNKに次のように語った。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面「速度戦は金日成の時代から続く、北朝鮮式社会主義体制の優越性を宣伝するためのプロパガンダだ。また崩壊事故が発生したとしても、金正恩時代に新たに登場した『朝鮮速度』を諦めることは簡単ではない。当局は、民心を確保し体制の安定化を図るためにも、住民のための成果を何としてでも見せなければという強迫観念に縛られている」
平壌市内では2014年、完成したばかりのマンションが崩壊して500人が犠牲になる大惨事があった。
(参考記事:「手足が散乱」の修羅場で金正恩氏が驚きの行動…北朝鮮「マンション崩壊」事故)また、装備や安全規則の不備も死亡事故の原因となっている。工事にあたっていた兵士たちにはヘルメットすら支給されず、本来は下にいてはならないクレーンの作業半径の中で作業を進めていたという。また監視員もおらず、現場では「怪我をしたら損」ということが強調されているという。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面「最近の建設現場は、建設のスピードを上げることだけに熱心で、安全規定などは眼中にすらない」(情報筋)
金正恩党委員長は、建設現場で速度ばかり優先し、質を無視する傾向が蔓延していることに警告を発しているが、長年の慣習はそう簡単に変わるものではない。かくして、貴重な人命が次から次へと失われていくのだ。
(参考記事:マンション崩壊で多数が下敷き…金正恩氏の「指示」もムダ)北朝鮮の大型事故の歴史
- 1970年8月:朝鮮民航(現高麗航空)機が墜落、金元彬(キム・ウォンビン)水産相を含む搭乗者全員死亡
- 1970年代:朝鮮民航機が離陸途中に墜落、ピバダ歌劇団団員ら152人が死亡
- 1979年:咸鏡南道(ハムギョンナムド)の咸興(ハムン)で貨物列車が爆発、通勤列車が巻き込まれ3000人死亡、1万人負傷
- 1983年7月:朝鮮民航機がギニアで墜落、23人死亡
- 1984年2月:朝鮮民航機がソ連で墜落、トン・ミングァン林業相、アイスホッケー選手団ら全員死亡
- 1984年4月:黄海北道(ファンへブクト)の平壌開城高速道路の現場で橋が落下、500人死亡
- 1985年:咸鏡南道の定平(チョンピョン)駅付近で列車で橋から墜落、500人死亡
- 1987年:咸鏡南道の化城(ファソン)で、兵士を輸送していた列車でTNT爆薬が爆発、駅舎と駅舎周辺半径1キロの住宅地が破壊
- 1989年夏:咸鏡南道で列車が谷底に転落、数百人から1000人死亡
- 1991年:慈江道(チャガンド)の江界(カンゲ)でミサイル工場爆発、1000人以上死亡、市街地破壊
- 1996年:慈江道(チャガンド)の松源(ソンウォン)で列車が谷底に転落、死者5000人説
- 1997年:慈江道の煕川(ヒチョン)で列車が墜落、乗客2000人死傷
- 1997年11月:平安南道の徳川(トクチョン)炭鉱で坑道火災
- 2000年1月:平安南道の陽徳(ヤンドク)で列車事故、平壌での大会から帰る途中だった地方幹部ら1000人死亡
- 2004年:平安北道の龍川駅で列車爆発、150人死亡、1300人負傷、市街地破壊で被災者8000人
- 2006年4月:咸鏡北道の高原(コウォン)で貨物列車、旅客列車が正面衝突、軍人270人、民間人400人が死亡
- 2007年8月:咸鏡北道でバスが崖から転落、50人死亡
- 2008年3月:咸鏡南道の新浦(シンポ)で列車が転覆、数百人死傷
- 2009年1月:両江道の雲興(ウヌン)で列車が坂道を逆走、転覆し、16人死亡
- 2010年11月:両江道の白岩嶺(ペガムリョン)で列車が崖から転落、数百人死亡
- 2011年3月:咸鏡北道楽園郡で貨物列車と旅客列車が衝突、死傷者多数
- 2013年10月:国防委員会庁舎新築工事現場で崩壊事故、80人死亡
- 2018年3月:両江道の各地で交通事故相次ぎ1日で300人死亡