国家元首が「でかした。褒美を遣わす」的なことを21世紀の今になってもやっているのが、北朝鮮だ。モノで人を釣る「贈り物政治」である。
最も卑近な例として、お菓子セットがある。4月15日の太陽節(故金日成主席の生誕記念日)などに全国の子どもたちに、金正恩総書記の名前で贈られるのだが、実際に作っているのは地元の工場だ。
当局は、子どもたちが「元帥様、ありがとうございます」と涙を流して喜ぶことを期待しているようだが、食糧危機が起きていなかったコロナ前には、不味いの何だのと値踏みをされる始末だった。
(参考記事:食糧不足でも金正恩の「お菓子セット」が重要視される北朝鮮)金正恩氏は最近、首都・平壌で住宅建設に当たる突撃隊(半強制の建設ボランティア)に贈り物をしたのだが、これもまたありがた迷惑な扱いをされている。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。
最近、平壌を訪れたという咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋は、西浦(ソポ)地区の住宅建設工事の着工式に合わせて、各道の建設旅団の突撃隊員にあるノートを贈った。臙脂色の表紙に社会主義愛国青年同盟の紋章が入り、「私の青春時代」というタイトルが入っている。金正恩氏が贈ったのこのノートは、日記帳だった。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面それも、自由に書けばいいというものではない。青年同盟中央委員会は、突撃隊員に毎日日記をつけるように指示を下したのだ。1日14時間労働で、太陽節などを除けば休みも与えられない。眠気のせいで足を踏み外し、転落死する事故も頻繁に起きている。そんな状況なのに、睡眠時間を削って日記をつけろというのだ。
(参考記事:兵士ら15人「生き埋め」に…金正恩 “残酷ビジネス” の舞台裏)
求められているのは、「今日はお仕事を頑張りました」「なんとかさんと仲良くなりました」という類のものではもちろんない。日記帳に印刷されているこのようなスローガンに沿ったものだ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面「母なる(朝鮮労働)党に忠誠の報告をする日は目前に迫っている」
国営の朝鮮中央通信は2014年5月、12歳から15歳の孤児を収容する中等学院の子どもたちを集めたキャンプ大会が開かれたという記事で、模範的な日記の例を挙げている。以下、記事から一部抜粋する。
元山中等学院の初級3年生パク・ソンは、楽しいキャンプの日々に受けた激情について日記帳に次のように書いた。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面「・・・われわれが学院で受けた愛もあまりに大きくて筆舌に尽くしがたい。ところが、今日また、世界一流の松涛園国際少年団キャンプ場にわれわれを真っ先に呼んでくれたのだから、実の父、母がいるとしてもこれより温かく、思いやりに富むだろうか。われらみんなのためにキャンプ場をおしゃれ宮殿に築いてくれたにもかかわらず、何か物足りないとして高級食品とすっきりしておいしい料理、肉類と魚類を送ってくれる金正恩元帥の愛は本当に空より高く、海より深い慈父の愛である。・・・」
咸鏡北道中等学院の初級3年生ヒョン・ジュヨンも、キャンプの一日一日は一生忘れられない最も貴重で追憶深い日々であるとし、次のような日記を残した。
「・・・金正恩元帥の温かい配慮がこもっているキャンプ場の各所で珍しい海の世界も見物し、弓も初めて射てみた。すべてが夢のようでうっとりしている。
このように立派な児童宮殿を築いて下さった元帥にわたしは心から感謝のあいさつを重ねてささげる。
敬愛する金正恩元帥さま、本当にありがとうございます」
日記がちゃんと書けているか週に1回チェックを受け、1日でも抜けがあったり、心がこもっていないと判断されたりしたら、毎週土曜日の生活総和の時間に人々の前で批判され、恥をかかされる。
北朝鮮は、韓国文化に憧れを持ち、国や最高指導者のためではなく、自分のために生きたいと考える若者の急増に懸念を抱き、思想教育を強化している。日記もその一環と思われるが、表向きは模範解答をするものの、裏ではけなすという「面従腹背」が彼らの処世術だ。こんなことをしたところで、労災事故が増えるだけで、何の効果もないのだ。
(参考記事:北朝鮮の若者が嘲笑する「雑巾代わりに制服で金日成銅像を磨く感動実話」)