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戦時下から戦後にかけての日本では、食糧価格や流通の安定などを目的にした配給制度が実施された。すべての食糧が配給でのみ得られるようになり、外食をするにあたっても、役所で発行された「外食券」が必要だった。

同様の制度は旧共産圏各国でも見られたが、未だに行われているのが北朝鮮だ。

国営レストランは、計画経済の中枢機能を果たす国家計画委員会が定めた量の食事を提供することになっており、その量に合わせた「飲食予備票」という外食券が発行される。客はそれを持っていけば、市場価格より大幅に安い国定価格で、食事にありつける。

ただ、各レストランはこの「国家計画分」だけを提供していては儲からないので、外食券ではなく外貨を持った客に優先的に料理を提供する。その間、一般の客は、長蛇の列に並ぶことを強いられる。

飲食予備票は、勤め先の職場や人民班(町内会)を通じて割り当てられるのだが、コロナ鎖国で生活苦に追い込まれた老人たちは、このチケットを売って生きながらえていると、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

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平壌の情報筋によると、3年目に入ったコロナ禍の中、老人たちは食費を稼ぐために必至に努力している。60歳以上の男性、55歳以上の女性には年老年金が支給されることになっているのだが、現在の額では1ヶ月にコメ200グラムほどしか買えず、それすらも支給が止まってしまった。

(参考記事:「子どもの駄賃」レベルの年金も中断、北朝鮮経済の深刻さ

平壌市内の大同江ビール店の前には、生活に困り見るからに健康状態の悪い老人たちが、多く集まっている。平壌市民には半年に12枚のビールクーポンが配給される。店に入って、クーポンと国定価格を支払えば1リットルのビールが出される。

ただ、上述のように、店に入るには長蛇の列に並ばなければならず、そもそも酒を飲まない人もいることから、クーポンを使わない人も少なくない。老人たちは、ビールを買って自分は飲まずに、他の人に売る「転売ヤー」をして差額を手に入れ、生活費にしているのだ。

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だが、儲けは雀の涙ほどだ。

クーポン1枚は1500北朝鮮ウォン(約30円)から2000北朝鮮ウォン(約40円)で買い取る。そこに国定価格の150北朝鮮ウォン(約3円)から200北朝鮮ウォン(約4円)のビール代を支払ってビールを受け取り、列に並びたくない客に、2500北朝鮮ウォン(約50円)から3000北朝鮮ウォン(約60円)で転売する。手持ち分をすべて売ったとしても、半年で1万北朝鮮ウォン(約200円)にもならない。

猛暑の続く平壌だが、老人たちは朝から晩まで汗を流しつつ店の前に立ち続け、儲けたわずかな額を生活費の足しにするのだ。

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情報筋は、老人の生活苦について、友人の両親の話を例に挙げて説明した。

勤め先で目覚ましい成果を上げたとして「労力英雄」の称号を得た夫婦は、平壌駅に近い3部屋付きの英雄マンションで、充分な配給と、1ヶ月に5000北朝鮮ウォン(約100円)の年老年金と功労者年金を受け取って、何不自由ない生活を送っていた。

ところが、妻が糖尿病を患ってから生活が徐々に苦しくなった。おそらく医療費の負担が重くのしかかったのだろう。夫婦は結局、先月初旬にマンションを売り払い、万景台(マンギョンデ)区域の1部屋しかない小さなマンションに引っ越すことを余儀なくされたという。

(参考記事:「医療は無償」という宣伝を信じ切っていた北朝鮮夫婦を襲った悲劇

国から優遇される平壌市民で、英雄称号を持った老人でも生活に困るほどなのだから、地方の老人の暮らしは言うまでもない。

最近は商売がうまく行かず、皆が皆、1990年代後半の大飢饉「苦難の行軍」の頃より苦しいと口にしていると伝えた咸鏡北道(ハムギョンブクト)会寧(フェリョン)の情報筋は、商売ができない老人や、面倒を見る子どものいない老人の悲惨な生活実態について伝えた。

現在受け取っている年金の額は1ヶ月に700北朝鮮ウォン(約14円)から1500北朝鮮ウォン(約28円)。コメ1キロが6000北朝鮮ウォン(約120円)台なのに、生きていけない。それすらも遅配になることが多い。

財源となっているのは、会寧市人民委員会(市役所)財政部が、市場管理所を通じて商人から徴収する市場管理税(ショバ代)だが、コロナ鎖国で商売あがったりでその収入が減ったため、年金をまともに支給できなくなったのだ。

面倒を見てくれる子どもがいてもいなくても、生活が苦しいのは同じだが、本来なら身寄りがなければ誰でも入れるはずの養老院(老人ホーム)には、戦争老兵(朝鮮戦争参戦者)や、幹部などとコネのある人しか入れず、入ったとしても、きちんとケアをしてもらえるわけではない。

(参考記事:コロナ鎖国の経済難で追いつめられる北朝鮮の高齢者たち