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北朝鮮は建国前の1947年、労働者、事務員とその家族を対象にして、国家社会保険法に基づき、無償治療制度を実施した。朝鮮戦争中の1952年には「無償治療制度を実施することについて」という内閣決定203号を採択し、その対象を労働者、農民など全住民に拡大した。そして、1953年1月1日からは「全般的無償治療制」の実施を宣言した。

旧共産圏諸国からの援助で維持されていたとは言え、こうした仕組みが国民の健康維持に役立っていたのは確かで、北朝鮮は「朝鮮労働党と首領(最高指導者)の人民施策の優越性」の現れであるとして、今に至るまで国内外に誇っている。

しかし、現実は異なる。90年代後半の「苦難の行軍」を前後して、制度は崩壊。病院で診察、治療を受けるにはワイロが必要となり、医薬品は市場で買わなければならない。ワイロを調達できず、命を落とす人もいる。

(参考記事:北朝鮮「産婦人科の総本山」で相次ぐ死…背景に医療の闇

今回紹介するのは、一人息子の斜視の治療を受けるために、住んでいたマンションを売り払うことになったある夫婦の話だ。

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舞台となったのは、国営メディアにもしばしば登場する柳京(リュギョン)眼科総合病院。平壌市内の万景台(マンギョンデ)区域のカルリムキル洞に住むチュさん夫婦の息子は、一人息子の斜視がひどくなったことから、テレビでも紹介されているこの病院を訪れた。

(参考記事:平壌で「柳京眼科総合病院」の開院式が行われる

医師は「近日中に手術を行わなければならない」と診断。夫婦は、早速手続きを進めようとしたが、医師は「複数の医師が分担する」「踏むべき段階が多いので慎重に判断する」「しっかり覚悟して入院させよ」という意味深長な言葉を発した。

息子は早速入院することになったが、医師は回診にやってきて簡単な質問はするものの、3日経っても手術の話は出なかった。付き添いで病院にいたチュさんの妻、キムさんはおかしいと思い、夫とともに医師を訪ねた。

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「うちの息子の手術はいつしてくれるのか」と尋ねたところ、「準備ができれば知らせる、有能な医師に担当させようとしているが、数人しかいないため時間がかかる、順番が回ってくるまでは待たなければならない、なるべく早くできるように努力する」との答えが返ってきた。

しかし、1週間経っても何の音沙汰もなかった。

すると、同じ病室の患者の保護者がキムさんにこう告げた。

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「ここでは渡すべきものを渡してこそ、手術をしてもらえる。15枚ほど用意して担当の医師を訪ねたら、手術する医師を決めてもらえた。ここではそれが決まりだ」

15枚とは、1500米ドル(当時のレートで約15万3000円)のことを指す。息子より後に入院したのに、先に手術を受ける人がいたが、いずれも幹部とのコネがある人や、さっさとワイロを支払った人であることに夫婦はようやく気づいたのだ。つまり、夫婦は当局の「医療は無償」というプロパガンダを本当に信じていたようなのだ。

北朝鮮は、柳京眼科総合病院を「金正恩時代の人民第一主義の産物」と宣伝していたが、病院には毎年上納金のノルマが課せられ、施設や設備も自主的に手当てしなければならず、このようなルールができていたのだった。

夫婦は、住んでいた3部屋あるマンションを売り払い、1部屋しかない古いマンションに移り住んで、息子の「手術費」を調達した。息子は入院してから2カ月後、ようやく手術が受けられた。

ところが、術後の状態が芳しくなかった。2度目の手術を受けさせる費用を受けるため、夫婦はマンションを売り払い、半地下の部屋に引っ越す羽目となった。

(参考記事:平壌で「半地下住宅」が急増する事情

「社会主義制度の優越性と宣伝している無償治療制など嘘だ。どこの病院にいってもカネを要求される」

夫婦がようやく現実に気づいたのは、既に財産のほとんどを失った後だ。財産の多くを投げ出してまで息子に手術を受けさせた夫婦は、病院側の対応に不満をいだいた。そして、行動に出た。

病院の創立5周年の日だった2021年11月1日、夫婦は病院の正門前に立ってこう叫んだ。

「院長と党書記に会わせろ!」
「息子の目を治すか、カネを返せ!」

だが、病院側の対応は、万景台区域安全部(警察署)への通報というものだった。創立記念日の喜びに包まれていた病院に冷や水を浴びせかけ、社会主義保健医療制度を批判したと見なされたのだった。夫婦は連行され「再び病院に現れたら、平壌市民証の剥奪を検討する」と警告を受けた。つまり、平壌に居住する権利を剥奪し、地方に追放するということだ。

無償治療制はとっくの昔に崩壊したことを知らず、バカ正直に当局の宣伝を信じていた夫婦。それでは北朝鮮で生きていけないのだ。

(参考記事:医薬品不足が深刻な北朝鮮、政府の対策は「病院で作れ」

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