北朝鮮の社会主義労働法第39条は、次のように定めている。
労働者、事務員、協同組合員たちに適用される生活費の基本形態は、都給支給制と定額支払制であり、生活費の追加的携帯は加級金制と賞金制だ。国家機関、企業所、社会協同団体は、勤労者たちの生産意欲をさらに高め、彼らの創意創発性を積極発揚させられるように、生活費支払い形態をそのまま適用すべきである。
どれだけ働いても毎月定額の給料を受け取る制度と、働いた分に応じて給料を受け取る制度があるということだが、一部の協同農場ではこの仕組みを使った分組管理制、圃田担当制が導入されている。ただ、必ずしも順調に導入が進んでいないようで、逆に制度が悪用される事例もある。
(参考記事:農業改革進まず貧富の差が激しくなる北朝鮮の農村)
江原道(カンウォンド)のデイリーNK内部情報筋によると、江原道と文川(ムンチョン)市の挑戦労働党委員会の指示に基づき、各農場では、今月5日から「個人都給制」というものを実施している。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面10人から25人の農場員からなる分組に、農地を管理させる分組管理制が導入されている農場では、この「個人都給制」に基き、農場員一人ひとりが農地に責任を負うことになった。ところが農場側が農場員に対し、土地を元に戻す、河川周辺の遊休地の開墾や道路と農地の間の小さな土地の農地化などの「新たな土地探し」、あぜ道に大豆を植えるなど、細々とした面倒な作業を押し付けているというのだ。
さらには、新たに切り開いた土地に植える種は農場員が自主的に調達し、国から示された1ヘクタールあたりの収穫高を確保して、計画量(ノルマ)の分だけ収穫物を納めよ、といった何から何まで農場員に丸投げする内容だ。
そもそも「新しい土地探し」とは、少しでも農業生産を増やすために、使われていない土地を探して農地にするというものだが、焼け石に水だ。実際、農場員からは、土壌が固くて作物を植えるに適していないところや、人が通るあぜ道に作物を植えたところで育つわけがない、などと言った強い不満の声が上がっている。
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また、今年1月に党江原道委員会の責任書記に就任したばかりの金秀吉(キム・スギル)氏に対する不満の声も大きい。朝鮮人民軍(北朝鮮軍)総政治局長を務めた同氏は、地方の農民の実情についてよくわかっていないようで「軍出身で平壌から来たから、庶民の実情は一つも知らず勝手な指示を下して執行せよというばかりでむちゃくちゃだ」(農場員)などと陰口を叩かれている。
新たな土地探し事業の第1四半期の総合指標で、江原道が目標を超過達成したと中央に報告されたとの話が広がり、農場員の間では、「農地が増えた分だけ、秋の収穫をより多く差し出せというに違いない」との懸念が出ている。農場のイルクン(幹部)の間でも、非常識な話だと、問題を提起したという。
情報筋は詳細に触れていないが、江原道の党幹部が点数稼ぎのために水増し報告を行なったことが考えられる。
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「農場員と農場のイルクンは、国が毎年いかにして少しでも多くの穀物を奪おうかと研究ばかりしていると言って、今年も国に全部奪われるのを見守るしかないと嘆いている」(情報筋)
軍糧米の供出を巡っては、一粒でも多く奪おうとする軍と、一粒でも多く守ろうとする農場の間で、毎年のように諍いが起きている。
(参考記事:協同農場を「占領」した北朝鮮軍の危機的状況)