今年2月17日に行われた韓国の国会議員選挙に、保守系野党の自由韓国党(現国民の力)の比例候補として立候補し当選した池成浩(チ・ソンホ)氏。
彼の当選を伝え聞いた北朝鮮の幹部からは驚きの声が上がった。彼は、北朝鮮から脱北し韓国に渡った脱北者で、コチェビ(ストリート・チルドレン)でもあり、事故で片足を失った障害者でもあったからだ。
(参考記事:「民主社会を知りたくなった」脱北者の選挙当選に北朝鮮幹部が驚愕)このことは彼の出身地、咸鏡北道(ハムギョンブクト)会寧(フェリョン)にも伝わったが、現地のデイリーNK内部情報筋によると、市民も大いに驚いたようだ。
「コチェビだった池成浩が南朝鮮(韓国)に行って代議員(国会議員)になっただなんて信じられない」(市民)
万民が平等に暮らす社会になったはずの北朝鮮だが、それは建前に過ぎず、すべての北朝鮮国民は「成分」と呼ばれる身分制度に縛られ生きている。成分がよくなければ、国会議員にあたる最高人民会議の代議員になるなど考えられない。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面また、越北者(韓国から来た人)は成分が悪いとされ、代議員はおろか、社会生活にも様々な制限が加えられ、命すら危ぶまれることもある。
北朝鮮当局は自国民に対して「金持ちだけがいい暮らしをして、他の大部分の人民は貧しい暮らしを強いられている」などと韓国を非難しているが、そんな韓国でコチェビだった池氏が国会議員になれたということは、衝撃を持って受け止められている。
(参考記事:【徹底解説】北朝鮮の身分制度「出身成分」「社会成分」「階層」)
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面そもそも、会寧では彼のことを知る人物はほとんどいないとのことだ。池議員と同じ脱北者で同時に当選した太永浩(テ・ヨンホ)氏について、北朝鮮当局は政治講演会や人民班(町内会)の会議で取り上げ非難したが、池議員については一切言及がなかったという。コチェビが社会的にどのように扱われているかを表す出来事と言えよう。
池議員は2018年に米トランプ大統領に面会し、北朝鮮の人権の実態について語ったが、当時は「脱北者が米国の大統領に会ったらしい」との噂が流れただけで、名前は知られていなかった。
(参考記事:米国務省が動画公開「机の上で麻酔なしに堕胎手術された」女性虐待の告発)あまりに出来すぎた話だと思われたのか、次のような反応も出ている。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面「本当に(議員に)なったのならば、(韓国が政治的に)利用しようとするのではないか」
「南朝鮮の国会では障害者への割り当て、脱北者への割り当てが別途定められているが、それで彼が議員になったのではないか」(市民)
ちなみに、そのような割り当ては法的に定められていない。
池議員のことを知った市民は「元コチェビの脱北者も国会議員になれる」ということを好意的に受け止め、韓国についての考えに変化が生じつつあるという。また、市民の中には、池議員が北朝鮮の人権状況の改善のために働いてくれるのではないかという期待を抱いている市民もいる。
「脱北者一人か二人が国会議員になったところで統一が早まるわけではないだろうが、脱北者も南朝鮮で国会議員になれるということに希望を持ったのは事実だ。脱北者がわれわれ(北朝鮮国民)を代弁してくれればいい」(市民)
ただ、自分たちが世界最悪とも言われる人権侵害国家に暮らしていると認識している人はさほど多くないようだ。一方で、自分たちが貧しいということについて知る人は多く、最大の関心は、国会議員の権限や特権よりも、年俸だという。
「南朝鮮で国会議員になれば1年に10万ドル(約1045万円)を超える大金を稼げるらしい。それだけあれば一生食っていけるだろう、本当に羨ましい」(市民)
ちなみに2020年の年俸は、1億5188万ウォン(約1367万円)だ。
北朝鮮の人々が、国会議員としての働きより年俸のことに関心を持つのは、自分たちが選んだ代議員にさほど関心を持っていないからだ。
「(北)朝鮮では代議員と言っても、最高人民会議で手を上げたり下げたりするだけだ。市民も南朝鮮の国会議員がどんな仕事をしているかは正直言ってよく知らない」(情報筋)
昨年3月に行われた最高人民会議の代議員選挙では、計687人が当選した。会寧には第598から第601の4つの選挙区があり、4人の代議員が選ばれている。選挙の前には選挙運動が行われるが、各候補の名前や政策を知らせるものではなく、「全員が賛成投票しよう!」というもので、有権者は、ただ儀式のように賛成票を投じるだけだ。
(参考記事:何でも「カネカネ」の北朝鮮、ついには選挙も「有料」に)