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韓国で今月15日に行われた国会議員選挙。253の地域区(選挙区)と47の比例代表を合わせて300議席が争われたが、文在寅大統領の与党・共に民主党とその系列政党が180議席を獲得し、単独過半数を確保した。一方、野党の未来統合党は系列政党を合わせても103議席の獲得にとどまった。

今回の選挙で注目を集めたのは、脱北者候補の当選だ。未来統合党所属で、ソウル市の江南区甲選挙区から出馬した北朝鮮出身の太永浩(テ・ヨンホ)元駐英公使は、58.4%の得票率で与党候補を破った。また、かつてコチェビ(ストリート・チルドレン)で、脱北後に北朝鮮人権活動を繰り広げているチ・ソンホ氏は、野党系衛星政党の未来韓国党の比例代表として出馬し、当選を果たした。

二人の当選の事実は北朝鮮にも伝わりつつあるが、デイリーNKは北朝鮮の中堅幹部であるAさんに、選挙結果についてインタビューを行った。

Aさんはまず、脱北者2人の当選について率直に驚きを示した。

「南朝鮮(韓国)の国会議員なら、わが国(北朝鮮)では代議員だ、すごい」

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Aさんは、北朝鮮で生まれ育った2人が全く異なる道を歩んできたことに注目した。

平壌出身でエリート教育を受け、華やかな外交の場で活躍してきた太永浩氏。一方で、地方の炭鉱の村出身で、コチェビ(ストリートチルドレン)となり各地をさまよい、鉄道事故で片足を失ったチ・ソンホ氏。

「わが国では平百姓(一般庶民)は死ぬまで自分の(地域の)道・市・郡党委員長と言葉すら交わせず、代議員と握手することすら難しい。南朝鮮は貧富の差がひどい腐って病んだ社会と聞いたていたが、わが国で成分(身分)が全く違った2人が共に働くことになったというのは、驚くほど平等な構造に見える。何が真の民主社会か知りたくなった」

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Aさんはまた、韓国からやってきた越北者は成分が悪いとされ、軍や朝鮮労働党に入る資格すら認められない北朝鮮社会の現状と比較して、驚きを示した。

「わが国では南朝鮮出身者とは革命を共にできないとして、発展(出世)を制限するので、南朝鮮に縁故がある人が政治を論じる代議員になるなんて考えることもできない。それで(当選したことが)嘘みたいに感じたが、われわれが教えられた南朝鮮の実情がすべてではないと考え、むしろわが国よりさらに平等かも知れないと思った」

成分とは、すべての北朝鮮国民を5つの階層に分類し、優遇または差別するという事実上の身分制度だ。金日成時代ほどは重要視されなくなっているとはいえ、成分の悪い人は条件の良い職場への配属や軍隊への入隊、入党、幹部への登用などの道が断たれている現実に変わりはない。

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(参考記事:【徹底解説】北朝鮮の身分制度「出身成分」「社会成分」「階層」

Aさんは、脱北者を国会議員として選んだ韓国の有権者について次のように評価した。

「平壌の中区域のような、ソウルの金持ちの地域で当選したらしいが、食べる心配をすることなく学校に通えた人々、財産を持った人々が差別的な考えを持たず、懐が広いという感想を持った。代議員に越南者を選んだということは、南朝鮮社会の富裕層が思想精神状態が異なり、意識が高いという気がする」

Aさんは、一般庶民よりは多くの情報を知り得る幹部ではあるが、さすがに韓国のすべての選挙結果や選挙区の傾向など、詳細についてまで知ることのできる立場ではないようだ。

太永浩氏が当選した江南区甲選挙区は、富裕層、保守層の牙城と言われる江南区、瑞草区、松坡区の「江南3区」の中でも、群を抜いて保守が強い地域だ。1996年以降7回連続で、現在の未来統合党に繋がる保守系政党の候補が当選している。

以前から、現与党の共に民主党やそれに繋がる政党が強いのがソウルのすう勢だ。それに逆行するような選挙結果を受け、反富裕層・反保守の感情に脱北者に対する差別が合わさり、ネット上では太永浩氏と地域そのものに対する心無い書き込みが相次いでいる。

一方、かつてコチェビで、障碍を抱えているチ・ソンホ氏の当選についても次のように述べた。

「比例代表がどんなシステムかはよくわからないが、国の政治に主導して賛成あるいは反対を述べて、法律に対しても意見を発揮できる立場なのだろう。コチェビ、それも障碍者が政治を論じる代議員になるなんて、わが国の制度では不可能だ。そのせいか、彼が利用されていると見る幹部も中にはいる」

(参考記事:障碍者という理由だけで追放される「革命の首都」平壌

今回の選挙は、抑制されているとは言え、新型コロナウイルスの感染者が増えつつある中で、様々な対策を取りつつ行われた。これについてAさんは次のような見方を示した。

「南朝鮮が悪性伝染病(新型コロナウイルス)で深刻な状況となっているが、それでも選挙を行うことと、人々が100%は参加していなかったことが、社会主義とは対象的だった」

北朝鮮でも、中央と地方の代議員選挙が行われている。しかし、その選挙とは名ばかりのものだ。各選挙区には1人だけ候補が立てられ、各候補の選挙活動は行われることはなく、「全員賛成投票しよう」という不思議なキャンペーンが繰り広げられる。ほぼ100%の人が賛成投票する。反対投票も、棄権も事実上不可能だ。

Aさんは複数候補が争う形の民主主義国の選挙制度については理解しているが、投票をしないという選択肢があることまでは今回初めて知ったようで、驚きを示している。

(参考記事:「全員賛成投票しよう!」北朝鮮選挙ポスターの謎

「わが国の代議員選挙は形だけのもので、地域別の候補が決まればその決定に従わなければならないのに、反対を示すなど想像すらできない。人民の意見が反映されていない選挙だが、今回、越南者が選ばれたのを見ると、選挙に参加しなくても捕まらないし、批判もされない南朝鮮社会(の現状)が理解できる」

(参考記事:韓国で「ホンモノ」の選挙を初体験する脱北者たち