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北朝鮮の金正恩党委員長は昨年末に開催された朝鮮労働党中央委員会第7期第5回総会で、「農業生産を画期的に増やす」ことについて指摘した。

(参考記事:「世界は新たな戦略兵器を目撃する」金正恩氏、党総会で宣言

1990年代後半の大飢饉「苦難の行軍」の当時からは格段に改善したとは言え、北朝鮮は慢性的な食糧難に苦しめられている。また、いくら最高指導者の鶴の一声があったと言えど、北朝鮮の長年の農業不振を解決するにしても、構造的問題が絡み合い、一筋縄ではいかない。そこに加えて今年は、新型コロナウイルスの感染防止対策が経済に甚大なる影響を及ぼし、現場からは悲鳴が上がっている。

咸鏡南道(ハムギョンナムド)のデイリーNK内部情報筋は、今年の穀物生産目標量は去年より増やされているが、農作業に必要な資材の確保に困難をきたしていると述べた。

そもそもなぜ、穀物生産目標量が増えたのか。建前上は計画経済を維持している北朝鮮は、工業生産同様に農業生産についても年間生産計画量、つまりノルマを各農場に割り当てる。しかし、ノルマ未達成による処罰を恐れた農場幹部による収穫量の水増し報告が横行しており、翌年のノルマもそれに基づき、前年増しで定められる。

また、自然災害や営農資材の不足による凶作は考慮されず、現実とかけ離れた数字がひとり歩きし続ける。

(参考記事:北朝鮮で始まった「農業不振の犯人探し」討論会

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情報筋は「自主的な堆肥の課題(ノルマ)が減らされた後でも、肥料の解決が大きな宿題となっている」と述べ、肥料の不足が深刻であると指摘している。

この堆肥とは人糞を発酵させて作った肥料のことを指す。

北朝鮮では、年が明けると同時に「堆肥戦闘」が大々的に展開される。人糞を農場などに納めることが求められるが、そのノルマは1人あたり数トンという達成が困難なものだ。そのため、市場では人糞が売り買いされ、住民は町内の共同トイレから糞尿が盗まれないように寝ずの番に立つ有様だ。

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有機質肥料の生産が増えたことで、今年からはノルマが減らされたが、新型コロナウイルス対策による国境封鎖と貿易停止の措置が取られたことにより、肥料が中国から入ってこなくなったことで、不足してしまった。

(参考記事:北朝鮮で新年恒例の「人糞集め」ノルマ減り喜びの声

咸鏡南道には、北朝鮮最大の興南(フンナム)肥料工場がある。しかし、原油供給の減少や設備の老朽化でフル稼働できていない。北朝鮮全体では155万トンの肥料が必要だが、他の工場を合わせてもその3割程度しか生産できていない。

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そのため、農場の担当者は何ヶ月も前から工場の前に長蛇の列をなし、肥料の受け取りをひたすら待つはめになっている。

(参考記事:ダーティマネーが飛び交う北朝鮮の熾烈な「肥料争奪戦」

また、ただでさえ少ない肥料だが、横流しで次から次へと消えていく。

(参考記事:生真面目な北朝鮮労働者を転落の道へと追い込んだ経済難

しかし、輸入に依存している総合肥料と尿素肥料は当局にもほとんど在庫がない。

足りないのは、肥料だけではない。情報筋によると、ビニール幕、農薬、農業機械に使うガソリンも輸入が滞ったために価格が上がり、農業に必要なコスト自体が上昇する見込みだ。

情報筋は「国境が封鎖され、貿易単位が取り寄せていた営農資材の供給が止まり、農場は昨年使ったボロボロのビニール幕を再利用しているが、状態がよくなく1年以上使うのは困難だ」と述べている。

当局も手をこまねいているわけではなく、金正恩党委員長が打ち出した農業科学化を実現すべく、様々な施策を行っている。

例えば、内閣の農業省は各地の人民委員会(市役所)に4課の指導員を駐在させ、現場の営農資材の不足状況を把握し、政府の支援が行き渡るようにし、地域の気候や土壌に合った種子や農薬の開発にも乗り出している。また、農業研究所は穀物、ジャガイモ、野菜の種子の改良に積極的に乗り出し、成果を上げている。酸性化した土壌と自然災害に強い種子を開発している。

しかし、いずれも上手くいっているとは言い難い。

4課は農業関連の政府の指示を直接受けて、農民の問題を解決しようとしているが、種子改良の件以外は、明確な答えを出せずにいる。農業研究所は、ジャガイモ、野菜の種子の改良に積極的に乗り出し、酸性化した土壌と自然災害に強い種子を開発しているが、残念ながら農業生産を向上させるレベルには至っていない。

また、圃田担当制というインセンティブ制度も導入した。しかし、営農資材の確保ができなければ、生産量の向上は難しい上に、上述の国から押し付けられた現実離れしたノルマのせいで、収穫のほとんどを国に持ち去られる事態が繰り返され、農民のやる気は向上していない。

(参考記事:進まない北朝鮮の農業改革にやる気を削がれる農民たち

「毎年困難な状況が続いているが、今年の農業は伝染病(新型コロナウイルス)のせいでさらに困難だ。伝染病より、(1年の)農業が終わっても(凶作で)腹をすかせることになることのほうが心配だ」(情報筋)