ワイロとともに、北朝鮮社会の悪弊の象徴とも言える「横流し」。本格的な農繁期を前にして、肥料の横流しが横行している。その様子を、咸鏡南道(ハムギョンナムド)のデイリーNK内部情報筋が伝えてきた。

横流しの舞台となっているのは、北朝鮮を代表する化学肥料工場である興南(フンナム)肥料工場だ。

最近、国内最高品質を誇るこの工場製の肥料を求めて、全国の協同農場、軍の後方部隊などからやって来たトラックやトラクターが工場を取り囲んでいる。中には、半年も前から順番を待っている人たちもいる。

郡の経営委員会のイルクンと協同農場の管理副委員長などは、冬から工場近隣の個人宅に宿代として食糧を渡して泊まり込み、肥料の受け取りを待っている。このような現象が起きている原因は、肥料を受け取る順序、優先順位が決められていないからだと情報筋は説明する。

韓国統計庁のデータによると、北朝鮮の肥料製造能力は年間224万9000トンで、国内需要を満たしてもなお余りあるほどだが、2014年の実際の生産量は50万1000トンに過ぎない。電力や原料の不足で、肥料工場がフル稼働できないからだ。

そのため、工場の幹部にワイロを渡して肥料を確保したり、横流しされた肥料を買ったりするなどの動きが起こる。協同農場は、収穫後に隠しておいたコメやトウモロコシを横流し業者に渡して、肥料を確保したりする。

もちろん、これらすべてが刑法、人民保安取締法、行政処罰法などで規定されている違法行為だ。今年初めから繰り広げられている非社会主義現象の取り締まりキャンペーンにひっかかり、苦労して確保した肥料をすべて没収されたり、ひどい場合には「国の肥料を窃盗した罪」で教化所(刑務所)送りになったりもする。

取り締まり班は24時間体制で工場周辺で警戒に当たっているが、彼らもワイロを受け取って見逃すため、ほとんど意味がない。

工場の労働者、保衛部、商人がグルになって、夜中に工場に忍び込んで肥料を盗み出す。需要が少なくなる冬に大量に買い込んで、別の工場や企業所の倉庫を借りて保管し、値段の上がる春先に売り払う商人もいるという。

保安員(警察官)や保衛員(秘密警察)も、力のない商人に「ケツ持ちしてやる」ともちかける。そう言われると商人は、取り締まりを逃れるために彼らと「協力」せざるを得ないのだ。

まさに、北朝鮮の病弊の集大成のような光景が肥料工場周辺で繰り広げられているわけだ。

カネもコネもない農民は肥料を確保できず、酒を飲んでクダを巻いているという。時にはケンカに発展することもある。

北朝鮮に蔓延する横流しの最大の被害者といえるのは朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の末端兵士たちだ。彼らは、協同農場から供給される食糧に依存しているが、軍の幹部や輸送担当者が、配給品をネコババして市場に横流ししたり、中身を安物にすり替えたりする行為が横行している。

軍幹部と言えども、国からもらえる給料はコメ1キロ分にしかならず、配給品を横流しして現金収入を得なければ、自分も家族もたちまち餓死してしまうからだ。

一方の庶民は、肥料不足を解消するために年初から「堆肥戦闘」と称される「人糞集め」のノルマを課せられる。住民たちは、ノルマを達成するため、新年早々人糞を求めてさまよい歩く。また、苦労して集めた人糞を盗もうとする「人糞泥棒」から守るため、酷寒の中で24時間警備しなければならないのだ。

(参考記事: 北朝鮮のお正月が世界で最も「過酷」なワケ