北朝鮮の大穀倉地帯「十二三千里平野」。首都・平壌の北西、黄海沿いに広がる大平野で、南北40キロ、東西20キロに渡って農地が広がる。
その南部にある平安南道(ピョンアンナムド)平原(ピョンウォン)郡の各農場の収穫量が、昨年よりさらに落ち込む見込みであると、現地のデイリーNK情報筋が伝えてきた。
情報筋がまとめた郡内の各農場の1ヘクタールあたりの予想収穫量は、稲(コメ)、トウモロコシともに2トン前後。豊作なら4〜5トンに達することを考えると、今年の作況は極めて悪いことがわかる。
大豊(テプン)、龍二(リョンサン)、梅田(メジョン)など、海から比較的近い大型農場では、収穫量が2トンにすら満たない。
その原因について情報筋は、台風による被害を挙げる。北朝鮮に影響を与えた台風は、7月の台風5号(ダナス)、8月の8号(フランシスコ)、9月の13号(レンレン)、17号(ターファー)、そして18号(ミートク)だ。韓国気象庁の統計によると、朝鮮半島に影響を与える台風の数は年平均3.1個。今年は、それを大幅に上回っている。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面(参考記事:「ある母子の貧しさゆえの悲劇」台風18号、北朝鮮でも洪水被害)
情報筋は中でも、台風7号の影響を挙げた。
「稲穂が実る時期に台風と洪水の被害で、稲とトウモロコシがすべて倒された。特に海辺にある田圃は塩害で実のない籾しか残っていない」
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面情報筋は、現地の農業部門関係者の話として、国際社会の制裁でビニール膜、肥料、農薬の供給が減り、初期の作況がよくなかったと伝えた。
収穫量が少なかったため、秋の収穫も例年より早く終わってしまったという。
「平安南道全体で、稲刈りと稲束の整理が11月初めには終わった。農民の間では『以前なら11月いっぱいかかったのに、今年の稲束は実が少なく軽かったので早く終わった』との話が出ている」(情報筋)
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面穀倉地帯として知られる黄海南道(ファンヘナムド)沿岸部の延安(ヨナン)、白川(ペチョン)、内陸部の載寧(チェリョン)などからも凶作との話が伝わっている中、北東部の咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋が、現地の状況を伝えてきた。
情報筋は、収穫の真っ最中だった今月中旬の時点で「最悪の状態」との話が出ていると伝えた。原因は台風などの自然災害、制裁による農業資材の不足で、他の地域と同じ理由だ。
「肥料は中国から取り寄せたもの以外にほとんど入ってこなかった」(情報筋)
農民の間からは「借金まみれになる」との心配の声が上がっている。北朝鮮の農民の多くは毎年春、トンジュ(金主、新興富裕層)から、秋の収穫後に利子を付けて返す条件で、穀物を借りる。しかし、今年は作況が悪く、国から受け取れるはずの分配もまだないため、返せない。
(参考記事:借金取りに追われる北朝鮮の農民「返せない」と開き直る)当局は今年の収穫量を450万トンと見ているとのことだ。軍糧米と戦時備蓄用の2号米を差し出せば、来年の食べるものの心配をしなければならないほどの不足になるという。
「コメが輸入されなければ、絶対的に食糧需要を満たせない、住民の間からは戦々恐々とする声が上がっている」(情報筋)
市場でのコメ1キロの値段は、4500北朝鮮ウォン(約58円)前後で小幅な値動きを繰り返している。これについて情報筋は、コメに雑穀を混ぜて炊くことでコメの消費量を減らしている人が多く、例年のように収穫直前から直後にかけて高値で売ろうとしても売れないからだと説明した。つまり、コメを買うカネがないから需要が減り、値段も上がらないというわけだ。
情報筋は、最も重要な対策として防災インフラの整備を挙げつつも、現実として困難で、次に肥料などの農業資材の円滑な供給を挙げている。しかし、「田植えの時期に国を上げて保証してくれるというのは言葉だけ」(情報筋)という状況だ。
(参考記事:ないないづくしで田植えを迎える北朝鮮の協同農場)根本的な農業改革の必要性についても言及した。一部地域で圃田担当制という、農民の生産意欲を高めるインセンティブ制度が導入され、ところによっては成果を上げているが、軍糧米を徴収されると結局は手元に何も残らず、意欲の低下を招いている。
情報筋は「最も理想的なのは、中国のように50年またはそれ以上に土地を貸し与え、収穫した穀物を国が買い取った上で、軍糧米とする方法だ」として、今のように無条件で軍糧米を奪い取っていては、何の変化も起こらないと指摘した。
(参考記事:北朝鮮で始まった「農業不振の犯人探し」討論会)