国連安全保障理事会の制裁決議2397号がすべての国連加盟国に義務付けた、自国内の北朝鮮労働者を全員本国に送り返す期限が年末に迫る中、中国では逆に北朝鮮労働者が増える兆候が察知されている。

中国と並び、北朝鮮労働者の最大の雇用国であったロシアが、決議に従って労働者を送り返そうとしていることとは対象的だ。中国も、今年6月までに北朝鮮労働者を全員帰国させよとの指示を企業に下しているものの、取り締まりを行わないばかりか、むしろ抜け道を提供することで、制裁破りを助けているような状況だ。

(参考記事:安保理決議の期限迫る、ロシアで北朝鮮労働者の帰国ラッシュ

平壌のデイリーNK内部情報筋は、今月に入ってからも平壌から多くの人が中国に出稼ぎに向かったと伝えた。その多くが平壌出身者で、中国企業から要請を受ければ北朝鮮の貿易会社はすぐに人材を派遣している。

「制裁など、わが国は気にもしていない」(情報筋)

月給は1500元(約2万3000円)から2000元(約3万800円)。吉林省の最低賃金は、地域によって異なるが、1480元(約2万3000円)から1780元(約2万7500円)。これを超える給料が支払われているのだ。

(参考記事:北朝鮮から海外に派遣された労働者、賃金が上昇傾向

もちろん、労働者が全額を受け取れるわけではなく、半分が北朝鮮当局にピンはねされる。それでも北朝鮮国内の建設労働者の日給2ドル(約220円)、国営企業に勤める労働者の一般的な月給の3000北朝鮮ウォン(約39円)を遥かに上回る額だ。

現在、北朝鮮労働者は遼寧省に6万人、吉林省に3万人いると言われており、莫大な額の外貨が北朝鮮の国庫に収まっていると見られる。

ちなみに、かつては遼寧省丹東が一番の派遣先だったが、今では吉林省延辺朝鮮族自治州の琿春、図們に行く人が多い。この地域の各自治体は、産業団地「朝鮮工業園」を造成し、北朝鮮の安価な労働力を使った製造業の誘致を進めてきた。

中国企業はこれらの工業地帯で、安価な北朝鮮労働力を使っての製造業を行っている。北朝鮮に進出する場合には、当局者へのワイロ、利益や完成品の持ち出し制限、制裁による製品の海外輸出不可など、様々な障壁があるが、中国国内ならばそんな問題も生じない。

(参考記事:意外と高くつく北朝鮮投資「コストが高くワイロまで必要」

中国に派遣される北朝鮮労働者は、かつて若い女性が多かったが、今では既婚女性も多数含まれている。

「制裁で国にカネがなく、平壌でも配給が減らされているような状況なので、外国に送り出してカネを稼げるようにしている。最近は、40代女性が多数含まれている」

若い女性だけでは、中国企業からの派遣要請に応じきれないという事情もあるようだ。

情報筋は、中国以外に労働者を受け入れてくれる国はないとして、ロシア、モンゴル、アラブ首長国連邦などにいた労働者が多数帰国していると伝えた。

「1年だけ(中国に)行って働けば、国内で商売を始めるための種銭を稼げるので、朝鮮の人々はともかく行きたがり、当局もできるだけ多く派遣したがっている」(情報筋)

これももちろん、中国当局の黙認があるからこそ可能なことだが、どのような手法を使っているのだろうか。かつては、国境地域の住民だけに発行される渡江証を使う例が多かったが、最近のトレンドは「公務旅券」、つまり公務員が公務で海外に渡航する場合に使用するパスポートだ。

丹東の貿易業界関係者は、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)の取材に、労働者たちが公務旅券を所持していると証言した。10年間有効で、ビザなしに30日間の滞在が許可される。月に1回、北朝鮮に戻る必要はあるものの、ビザ代20ドル(約2200円)がかからず、就労ビザでないために、中国政府にとっても言い逃れしやすいという利点がある。

現在、渡江証を持って働いている労働者は、順次公務旅券に切り替えていると情報筋は伝えた。また、技能実習制度を利用して、労働をさせながらも労働者の身分ではないという形にする、制裁破りも横行しているようだ。

(参考記事:「技能実習制度」を悪用し労働者を中国に派遣する北朝鮮

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