北朝鮮の北部にある両江道(リャンガンド)。蓋馬(ケマ)高原に属し、平均海抜は1000メートルに達する。霜の降りない無霜期間が年間150日に満たず、年間降水量も600〜700ミリと少ない。

そのため、稲作の北限とされている中国の黒龍江省南部より500キロも南にあるのに、稲作はほとんどできない。その代わりに栽培されているのはジャガイモやトウモロコシだが、いずれもあまり現金収入につながらない作物だ。(参考記事:打ち捨てられた「将軍様の革命的ジャガイモ農法」

現地の農民は様々に知恵を働かせて現金収入を確保しようとしているが、北朝鮮当局の愚策により、彼らの労働意欲は打ち砕かれている。

現地のデイリーNK内部情報筋によると、現場となったのは道内のある村だ。農民は、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)から畑を借り受けて、トウモロコシを栽培している。

今月初め、軍の検察所の検事からなる検閲(査察)隊がやってきて、畑の抜き打ち検査を行った。検閲官が目にしたのは、スイカだった。

農民が借りているのは約500坪の畑だ。そのうちの7割にトウモロコシを、3割にスイカを植えている。これでトウモロコシの収穫ノルマも達成し、スイカを売って現金収入を確保するためだ。情報筋は言及していないが、トウモロコシの栽培に必要な肥料や農機具も、スイカを売ったカネで購入しているものと思われる。さもなくば、闇金業者から借りるしか方法はない。(参考記事:利息200%の借金地獄で生きる北朝鮮の農民たち

普段は涼しい両江道も、今年は猛暑に襲われているが、海抜が1000メートルを超える畑は被害を逃れ、豊作が期待されていた。スイカは1キロ1600北朝鮮ウォン(約20円)から2000北朝鮮ウォン(約26円)で市場の商人に買い取ってもらえる。

スイカを見た検閲官は、「トウモロコシ畑にスイカを植えるのは、党の方針に背く『非社会主義的行為』で『エゴイズムの発露』だ」「土地を貸したのは軍の食糧を確保するためであり、スイカを植えてカネ儲けせよと貸したわけではない。党に歯向かうのなら処罰を覚悟せよ」などと言って、スイカを根こそぎ抜き去ろうとした。

それを見た農民は慌てて「ノルマさえ達成すれば良いはずだ」「せっかく植えたものなのだから、今年だけは見逃してほしい」と検閲官に泣きながらすがりついた。ところが検閲官は逆に腹を立て、スイカのつるをズタズタにして畑をむちゃくちゃにしてしまったという。

収穫を目前にしてスイカ畑をむちゃくちゃにされた農民は、「お上のやることはあまりにも酷すぎる」と激怒している。無事なスイカを見つけようと、泣きながら畑をさまよう人もいたという。

農民はまた「党の政策に反しているのは検閲官の方だ」とも言っている。金正恩党委員長は2012年、協同農場の農地を農場員(農民)に任せ、収穫の一定割合だけを国家に納めさせ、残りは個人の分前とする「圃田担当制」を導入したが、取り締まりはそれに反しているという理屈だ。

当局は来年も農民に畑の耕作を委託しようとするだろうが、今回の一件でやる気を削がれた農民は、もはや熱意を失ってしまったかもしれない。スイカを取り上げられたことで、トウモロコシの収穫まで減りかねないのだ。

だが、問題はそれだけにとどまらない。

北朝鮮当局は今年初めから「非社会主義的現象」、つまり当局の考えるところの社会主義にふさわしくない行為を取り締まるキャンペーンを繰り広げているが、今回の取り締まりも締め付けを強化しようとする雰囲気に便乗したものではないかとの見方も出ているという。(参考記事:「網タイツ」を取り締まれ…金正恩氏の命令でキャンペーン

しかし、この取り締まりキャンペーンで生活を脅かされた人々が猛反発し、一部では緩和を余儀なくされている。

(参考記事:金正恩氏「花柄ストッキング禁止令」を撤回か…重要政策で挫折

畑を巡っては、当局と農民との闘いが毎年のように繰り広げられている。金正恩氏が提唱した植林事業を進めるために、当局は農民が山を切り開いて作った個人耕作地を乱暴に没収している。その恨みで、農民は植えられた木を密かに抜いて、作物を植えたり、木を植えるふりをしてわざと枯れさせたりしているという。

権利意識を持ち始めた北朝鮮の人々が、スイカ畑をむちゃくちゃにされた恨みを、どのような形で噴出させるかわからないのだ。(参考記事:金正恩氏vs北朝鮮の農民…畑を巡る熾烈な闘い