猛暑による農業へのダメージの拡大で、「今年の収穫はもうダメだ」という嘆きの声が上がっていた北朝鮮に、ようやく恵みの雨が降り注いでいる。韓国気象庁によると、13日から14日にかけて北朝鮮の北部を中心に雨が降り、降水量は多いところで80ミリに達した。

しかし、雨が上がる15日からは再び猛暑が予想されている。そんな中で人気を集めているのがビジネスが食べ物の「出前」だ。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

平安南道(ピョンアンナムド)在住の情報筋によると、猛暑の中、ノンマグクス(トウモロコシ麺を使った冷麺)が飛ぶように売れているという。それを受けて、個人経営の食堂はさらなる顧客を開拓するために出前を始めた。

このような食堂を営んでいるのは大抵が女性で、人件費を節約するために従業員を雇わず、夫に出前を任せている。一般的に北朝鮮の男性は、国営企業や国の機関で勤めているが、ほとんど給料がもらえないため、一家の大黒柱は女性だ。そんな状況で、少しでも家計の足しになるべく、出前係を買って出ているものと思われる。

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注文が入れば、注文個数が少なくても、距離が多少遠くても、どこにでも出前する。それも出来合いのものではなく、麺がのびるのを防ぐために、麺とスープを別々に包装したものをバイクで運ぶのだという。

北朝鮮にはこれまでにも「出前」のサービスは存在した。例えば、平城(ピョンソン)市内にある国営食堂も、出前を行っている。ただ、注文個数が少ない、距離が遠いなど様々な言い訳を並べて出前を断ろうとするという。国営食堂の場合、売り上げが多かろうが少なかろうが、従業員の給料には反映されない。苦労して出前したところで従業員には何のインセンティブもないので、嫌がるのだ。

一方で個人食堂は、個数や距離についてうるさいことを言わず、確実に届けてくれる。サービスの良し悪しが売り上げに直結し、経営者の収入に影響するからだ。

このような出前は、首都・平壌のみならず地方都市でも広まりつつあるが、それを可能にしたのは、携帯電話の普及だ。

北朝鮮の通信事情に詳しい韓国情報通信政策研究院のキム・ボンシク副研究委員は、韓国紙・ハンギョレ新聞の取材に対し、北朝鮮での携帯電話加入者は500万人、全人口の約2割に達していると説明し、特にスマートフォンは商売に欠かせないツールになっていると述べた。また、国連児童基金(UNICEF)が昨年、北朝鮮の8500世帯を対象に調査した結果によると、全世帯の69.0%が携帯電話を保有している。

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現地の別の情報筋によると、今では大抵の人が携帯電話を使うようになり、食堂、商店はもちろん、市場で野菜を売っている女性も携帯電話で注文を受けて配達している。市場の米屋は、注文が多いため配達する人を雇って対応している。

「わずか数年前までは考えられなかったような変化が、商人の間で起きている。新たな販売手法やアイテムを考えるようになり、客に対するサービスという概念が生まれたようだ」(情報筋)

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ただし、いずれの情報筋も、平壌に近く、巨大な卸売市場を擁し、北朝鮮国内ではかなり裕福な平城とその周辺地域の現状を語っているに過ぎない。北朝鮮の山間部には、電気も水道もないようなところもあり、「携帯電話とデリバリー」が津々浦々に普及するのはまだかなり先のことになるだろう。

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