北朝鮮が水爆実験と主張する核実験を行ったのが6日。奇しくも前日夜に、筆者は某国駐在の敏腕記者と電話で意見交換した。

お互い、「中国は決して北朝鮮の核を認めない」という点で一致するなか、記者は興味深い話を打ち明けてくれた。

「北朝鮮は『中国も、わが国の核保有を認めた』ということを既成事実化するためにあらゆる手を尽くしている」

金正恩氏が中国に仕掛けたワナ

たとえば、今年36年ぶりに開かれる党大会の前に、金正恩第1書記が訪中。そして、党大会で改めて「核保有宣言」をすれば、中国は北朝鮮の核保有を黙認したことになるーーこういったシナリオを北朝鮮が想定し、また中国も警戒しているというのだ。

今回の核実験によって、一時期、噂されていた党大会前の金正恩氏訪中の可能性は限りなく低くなった。とはいえ、今後も金正恩氏が何かを仕掛けてくることは充分に考えられるだろう。

そんなことを思いながら、昨年の中朝両国の動きを改めて振り返ると、確かに、金正恩氏が、中国を「核ゲーム」に引きずり込むため、あちこちにワナを仕掛けていたふしが見受けられる。

金正恩氏が仕掛けた第1のワナは、昨年10月だった。

ミサイル発射取りやめというワナ

核・ミサイル問題や親中派の張成沢(チャン・ソンテク)氏を処刑したことにより、悪化していた中朝関係だが、労働党創建70周年記念式典に中国共産党序列5位の劉雲山氏が出席。ひな壇で正恩氏と劉氏は手を取り合いながら中朝関係をアピールした。

北朝鮮は、党創建日の直前まで長距離弾道ミサイルの発射をちらつかせていたが、結局は発射せず。中国は、発射を断念させるために、劉氏を式典に出席させと筆者は見ている。

これに気をよくした中国は、北朝鮮との関係改善に手応えを感じたようだ。その後、中国はネットにおける正恩氏を揶揄するコンテンツの検閲を強化するなど、北朝鮮に配慮を見せている。

モランボン楽団訪中というワナ

そして12月、中国側からの提案によって、金正恩氏の特使とも言えるモランボン楽団の訪中が決定し、中朝双方が歩み寄る雰囲気が高まった。

ここで、金正恩氏は第2のワナをしかける。

既にモランボン楽団の公演(12日)が決まっていたにもかかわらず、直前の10日、金正恩氏は「(北朝鮮が)水素爆弾の巨大な爆音を響かせることのできる強大な核保有国になることができた」と、水爆に言及したのだ。

核を認めるわけにはいかない中国は、即座に不快感を示すが、公演の準備は既に進められていた。それだけに、中国も公演を中止するというわけにはいかなかっただろう。

そして、モランボン楽団公演初日の12月12日、金正恩氏は第3、最後のワナを仕掛けた。

金正恩氏が最高指導者に就任して以来、最大の成果といえる長距離弾道ミサイル「銀河3号」の発射映像をモランボン楽団の公演で流すというワナだ。銀河3号の発射日は12月12日。まさに、モランボン楽団公演の初日だった。

整理すると、(1)党創建記念日に中国共産党要人を招き入れ、ミサイル発射を取りやめて、モランボン楽団を派遣(2)公演直前に水爆に言及する(3)モランボン楽団の公演でミサイル発射を称える映像を流すーー極めて巧妙なワナといえる。

中国が、このワナにはまっていれば、北朝鮮の核・ミサイルを「黙認」したかのような既成事実を押しつけられ、国際社会で大恥をかいていただろう。しかし、寸前になって中国はこのワナに気づき、モランボン楽団の公演はドタキャンされることとなった。

そして、年明け早々、北朝鮮は核実験を強行した。

水爆実験の翌7日、北朝鮮は核実験を正当化する論説を展開しているが、そのなかに気になるくだりがある。

「これまで、米国の核脅威・恐喝を受けるわが国をどの国も救おうとしなかったし、同情もしなかった」

米国だけでなく、国際社会に責任があると言わんばかりの主張だが、「どの国も」というのは実は、中国に対する当て付けではなかろうか。

反米を声高に叫ぶ裏には、友人のふりをして手を差し伸べるふりをしながらも、決定的な局面では、冷たい態度を取る中国に対する反発が隠されているようだ。

今回の核実験によって、中朝関係の改善は振り出しに戻った。それでも、中国は北朝鮮の姿勢を決定的に変えるほどの強硬手段を取ることはできないだろう。

確かに中国が本気になれば、重油などエネルギー面で中国に依存している北朝鮮を窮地に立たせることは可能だ。しかし、下手に対応を間違えれば、韓国主導の統一国家、すなわち親米国家が誕生する可能性がある。北朝鮮を緩衝地帯としてキープしたい中国からすれば、それは悪夢以外の何物でも無い。

また、北朝鮮は核実験の正当化を主張するなかで、国際社会の人権包囲網に対する反発を理由の一つにあげている。人権で言うなら、中国は、欧米からの人権攻勢を嫌っており、北朝鮮を擁護せざるを得ない立場にある。

北朝鮮が核実験やミサイルを発射するたびに、中国の対北政策がポイントだと論じられてきた。しかし、もはや中国にでさえ金正恩氏の暴走は止められないという現実を直視すべきだ。

そのうえで、北朝鮮への対応策を講じない限り、近いうちにまた同じような事態が起こるだろう。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記

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