北朝鮮は表向き、「風俗産業」が存在しないことになっている。しかしその実、「草の根資本主義」の広がりとともに、最も発展を遂げているのがこの分野かも知れない。

その主役は、北朝鮮の新興富裕層「トンジュ(金主)」だ。別名「赤い資本家」とも言われる彼らは、不動産や裏ビジネス、そして国家の建設事業の利権などに深く食い込みながら、猛スピードで資本主義化する北朝鮮経済を牽引している。

そのトンジュたちは、大規模なサービス施設を備えた銭湯、いわば「スーパー銭湯」の運営にも参入している。ここには、別料金を出せば利用できる「秘密のVIPルーム」があり、幹部達の不倫、そして売春の現場になっているという。つまり、事実上の「ラブホテル」と化しているのだ。

「夜の奉仕」専門集団とは

北朝鮮では、経済難を背景にした「生計型売春」が多いが、最近では携帯電話欲しさに売春する女子大生まで登場している。そうした女性たちに場を提供する風俗ビジネスという意味では、さもありなんというべきか。


不倫や売春が横行するスーパー銭湯は、前述のように国家の利権に食い込むトンジュが経営、さらに利用するのが国家機関の幹部ということもあり、多少の違法行為があったとしても、北朝鮮当局は表立っては手が出せないようだ。

そもそも、最高指導者の性生活が乱れているわけだから、権力層の風紀が乱れるのも当然だ。

金正恩第1書記の父・金正日総書記は、国家に身も心も捧げる女性集団「喜び組」を作り上げた。それだけでなく、夜の奉仕を専門とする「木蘭組」という特別な女性集団も存在するという。

こうした女性たちは「5課処女」と呼ばれ、早ければ16、17才で選ばれ、政治的な身辺調査だけでなく、過去の男性経験をも含めた身体検査まで行われる。審査に合格すれば、金一族を支える「特別な」集団へ仲間入りできるが、不合格となれば、党幹部たちの愛人として囲われるケースも多い。

トンジュが経営するスーパー銭湯は、こうした不倫カップルが密かに関係を結ぶ場になっているのだろう。

金正恩氏は、いちおう売春を厳しく取り締まる姿勢を見せている。しかし、「上乱れれば下これに習う」という言葉があるように、国家の統制システムとして、女性を慰み者にしながら、幹部たちが性欲に溺れているような状況では、到底説得力を持たない。

まずは、国家の指導層が身を正すべきだろう。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記

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