鳴り物入りで完成を迎えた平壌市内の「未来科学者通り」。大同江沿いに立ち並ぶ新築マンションの威容は圧巻そのものだが、部屋を割り当てられた人々の反応は今ひとつだ。その理由をデイリーNKの平壌内部情報筋が探った。

未来科学者通りの高層住宅(2015年10月21日付労働新聞より)
未来科学者通りの高層住宅(2015年10月21日付労働新聞より)

「将軍様(金正恩氏)の人民愛で建てられたオシャレなマンション」

北朝鮮当局は、未来科学者通りの宣伝に余念がない。平壌市内の大学や科学技術研究機関の研究者が入居対象となっているが、人々は引っ越しをためらっている様子だ。住んでいた家を既に売り払った人は「早まったことをした」と非常に後悔しているとのこと。

水道とエレベーターも…

それは「未来科学者通りの新築マンションには、暖房設備がなく、温水も出ない」という噂が広まっているからだ。 平壌市内の新築マンションの暖房はセントラル・ヒーティング方式になっている。これは市内各所にある設備から温水を各部屋に供給するもので、とても暖かく、部屋の湿度も保たれるため非常に快適だ。

ところが、一向に解消しない電力難のため、セントラル・ヒーティングがまともに稼働しないことが多い。このような住宅に住んでいる人は「今年は寒さに震えて冬を越さなければならないのではないか」と心配しているという。

バケツを持って40階まで

最近、家庭内の電力はソーラーパネルで賄うのが一般的になっており、停電になっても部屋の中は真っ暗ということにはならないが、暖房に加えて水道とエレベーターばかりはどうにもならない。 高層マンションでは、地上から屋上に設置されたタンクまで水を上げてから、各階に供給する仕組みになっている。つまり、停電になれば断水してしまうのだ。もちろん、エレベーターも動かない。

水は近くの井戸や川まで汲みに行き、重いバケツを持って30階、40階まで延々と階段を登らなければならないのだ。今回の未来科学者通りの入居対象となった研究者は、中高年から高齢者が多い。高齢者にとって、高層階への「水汲み」はとてつもない苦行だ。

1980年代から90年代に完成した光復通り、統一通り、紋繍通りなどのニュータウンでも同様の事態が起き、冬には暖房の効く親戚の家に避難する人が相次いだというが、無理もない話だ。厳冬期の平壌は気温が零下20度を下回る日もあり、暖房のあるなしは場合によっては生死にも関わる問題だからだ。

価格下落が止まらず

そんな事情もあり、北朝鮮では高層階はあまり好まれない。「元々住んでいたオンドルの家なら、石炭さえあれば暖房ができる」と言って、引っ越しをためらうのも無理はない。

未来科学者通りのマンションの入居権を売り払う人が相次ぎ、トンジュ(金主、新興富裕層)の間で取引されているが、「ナイナイづくしの新築マンション」だという噂が広まり、価格がどんどん下落しているとのことだ。

このままでは、金正恩氏肝いりの「未来科学者通り」がゴーストタウン化しかねない状況だ。

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