以上のことから、ロシアにとっての北朝鮮の意義とは経済的利益にあると評価しうる。
この点、我が国の一部マスコミでは、ロシアによる北朝鮮接近はウクライナ問題で外交的孤立状態にあるロシアが、アジア太平洋地域に位置する北朝鮮との外交関係をカードとして使うために同国との関係緊密化を進めているかのような論説も散見されるが、内実をみれば、北朝鮮側からにわかにロシアに接近していること、及びロシアにとって北朝鮮の意義は経済的利益にあることがお分かりいただけるであろう。
また、李洙墉外相、崔龍海書記ともに、モスクワ詣での後、極東各地を訪問した主たる理由が、北朝鮮とロシアの農業共同プロジェクトの交渉にあったことも指摘しておきたい。同プロジェクトは北朝鮮労働者が極東地域に点在する休耕地を耕作し、収穫物を北朝鮮に輸出ないしロシア国内で販売しようというもので、北朝鮮側は1万ヘクタール以上の土地の貸与をロシアから受けるべく、カタールとの間で6億ドル規模の資金融資を協議中であるとされている(11月14日付インターファクス通信)。
北朝鮮の政府要人は、モスクワではプーチン?金正恩の首脳会談という世界の注目を集めるテーマを協議した一方、わざわざモスクワから極東地域に移動し、農業共同プロジェクトという一見すると地味な問題を議論したことも覚えておく必要がある。
以上がこの秋までの露朝関係接近に関する分析であるが、さらに12月19日、ロシアが来年5月9日にモスクワで開催される対独戦勝記念日に金正恩を招待したと報道された(同日付朝日新聞デジタル版等)。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面同記事では金正恩がこの招待を受けるかどうかは依然不透明だとされているが、一部外交専門家が主張してきた「金正恩の指導者としての初外遊地が中国ではなくロシアになる」との説は、今後ますます無視できないものとなるのは確かであろう。
フリージャーナリスト。ロシア極東での留学、勤務歴あり。日本企業極東進出やロシア政府の極東戦略について執筆。最近の関心事は、ロシア極東開発に対する中国の関心など。
※『情報と調査』2015年1月1日号から執筆者の許諾を得て転載したものです。