軍事協力関係を強めるロシアと北朝鮮の間で、やや奇妙なやり取りがあった。ロシア外務省のマリヤ・ザハロワ報道官は30日、自身のSNSで「申紅哲(シン・ホンチョル)駐ロ朝鮮大使を通じ、金与正(キム・ヨジョン)朝鮮労働党副部長から新年の贈り物を受け取った」と明らかにした。ザハロワ氏は返礼として、金与正の肖像画を贈ったという。

北朝鮮の体制では、最高指導者(首領)以外の人物が贈り物を行うことは、長年にわたり禁忌とされてきた。贈り物を下賜できるのは首領のみという意識が強く、私的な贈答は「宗派(派閥)の温床」や「特定幹部への幻想を助長する行為」として、厳しく統制されてきた。その意味で、金与正氏の“プレゼント外交”は極めて異例といえる。

金与正氏は、兄・金正恩総書記の代弁者として対外メッセージを担い、有事の際には後継者となる可能性もあると筆者は見ている。一方、最近は金正恩氏の実娘である金ジュエ(主愛)氏が、後継者の有力候補として浮上してきた。北朝鮮国内での両者の報じられ方は、きわめて対照的である。

ザハロワ氏が贈った金与正の肖像画は、世界的に知られるロシアの画家ニカス・サフロノフの作品で、「一晩で完成させた」と紹介された。サフロノフ氏は、プーチン大統領が2025年3月にトランプ米大統領へ贈った肖像画を手がけたことでも知られている。SNSには、申大使が贈り物を手渡す映像や、金与正が贈ったとみられる大型の花瓶の写真も掲載された。

韓国の独立系メディア「サンドタイムズ」は、ロシア側では一管理職にすぎない外務省報道官が、北朝鮮最高指導者の血族と贈答を交わした点を「異例」と伝えた。これに対し、韓国外交筋からは、金与正の職級が副部長であることを踏まえ、次官級や次官補級に相当する儀礼的なやり取りだとの見方も出ているという。

今回の贈答は、金正恩総書記とウラジーミル・プーチン大統領が新年の祝電を交わした動きと重なり、北ロ関係の緊密さを内外に誇示する演出と受け止められている。一方で、その背景には、戦争終結後を見据えた北朝鮮の強い不安があるとの分析も根強い。国策研究所関係者は「外交的に孤立する北朝鮮が、ロシアを必死につなぎ留めようとしている現実を示す出来事だ」と指摘している。