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北朝鮮で売られている商品の多くには、国定価格と市場価格が存在する。前者は国が決めたもので、配給時に適用されるもので極めて低く抑えられている。一方で後者は、市場での販売価格で、ものによって両者の価格差は100倍以上になることもある。

北朝鮮当局は、その国定価格を引き上げる措置を取ると同時に、一部の企業で、労働者の給料を試験的に引き上げる措置を実施した。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

平壌市の幹部は、平壌紡績工場は昨年10月から、コメ1キロの国定価格を、46北朝鮮ウォン(約0.8円)から2000北朝鮮ウォン(約34円)に引き上げたと伝えた。

北朝鮮の食糧配給制は身分と業種によって7等級に分類されているが、配給時に使われる国定価格は同じだ。2002年7月の「経済管理改善措置」で、事務員労働者の給料が65北朝鮮ウォン(当時のレートで約1円)から2300北朝鮮ウォン(約39円)に引き上げられると同時に、コメの国定価格は1キロ46北朝鮮ウォンと280倍に引き上げられた。そして、今回の値上げは21年ぶりとなる。

平壌紡績工場の労働者の給料も昨年10月に2300北朝鮮ウォンから、5万北朝鮮ウォン(約850円)に引き上げられ、今年からは10万北朝鮮ウォン(約1700円)に引き上げられる。

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この幹部によると、国家的に重要な産業を担う企業中心に、試験的に賃上げが行われる。対象となっているのは、現在でも食糧配給を受け取れる肥料工場の労働者など、全体の2割程度と見られる。なお、平壌紡績工場は、中国企業からの委託生産で外貨を獲得していると知られている。

平安南道(ピョンアンナムド)の情報筋も、昨年10月から順川(スンチョン)肥料工場の労働者の国定価格、給料ともに上げられたと伝えた。これは、周囲の順川炭鉱や火力発電所でも実施されている。

この措置には肯定的な面がある。農民は、極度に安い値段で穀物を半ば強制的に召し上げられるのを嫌がり、ありとあらゆる手を尽くして穀物を隠し、市場に流して利益を得ていた。しかし国定価格の引き上げに伴い、買取価格もほぼ同額に引き上げられる。つまり、農民の手元に残るのは国に売っても市場に売ってもさほど変わらない額ということになる。

(参考記事:軍と国家が一斉に農場を襲う、北朝鮮「食糧難」の末期症状

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金正恩総書記は市場に奪われた穀物流通の主導権を国の手に取り戻すため、国営の米屋「糧穀販売所」の再整備を進めたが、農民はコメを売ろうとしないため、思ったような運営ができなかった。しかし今回の引き上げに伴い、ある程度の量が糧穀販売所に入荷するようになると見られている。

(参考記事:拝金主義で骨抜きにされていく「金正恩の米屋」計画

韓国の朝鮮半島未来女性研究所のヒョン・イネ所長は、今回の措置を「労働者の給料と食糧価格の現実化」と見ている。

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「月給で食糧が買えないタダ働き状況で誰が熱心に働くだろうか。そのため月給を上げて食糧(問題)を解決しようというものと思われるが、だからといって国家財政が枯渇した状態で、紙幣を刷って市場に流入させるとインフレにつながる可能性が高い。少し見守るべきだろう」(ヒョン所長)

成功すれば、労働者が上司にワイロを渡して出勤扱いにしてもらい、市場での商売に精を出す「8.3ジル」という行為も大幅に抑えられるだろう。一方、ヒョン所長の指摘する通り深刻なインフレに繋がる可能性や、賃上げ分の資金調達を企業に丸投げすれば、設備や敷地を個人に貸し出す行為がより一層進む可能性も考えられる。そもそも資金調達ができず、賃上げが実施されない可能性もある。

北朝鮮農業分野の専門家であるグッドファーマーズ研究所のチョ・チュンヒ所長は、コメの買取価格は1キロ20北朝鮮ウォンで、それを労働者に買取価格より安い、1キロ18北朝鮮ウォンで配給する、現実とかけ離れたものだったとして、今回の引き上げは、協同農場が自主的に営農資材を確保できるだけの予算を確保する措置だと見ている。また、農業生産性を上げることにつながるとも見ている。

協同農場は、従来の買取価格では、市場価格で販売されている肥料など営農資材を購入するだけの予算が確保できず、トンジュ(金主、ヤミ金業者)から借金をして購入するしかなかったが、今回の措置が成功すれば、その必要はなくなる。

(参考記事:金正恩氏が警告も「悪循環」止まらず…協同農場の借金問題