寒さの厳しい北朝鮮で、冬の間の貴重なビタミン源となるのはキムチだ。動物性たんぱく質、乳酸菌などが豊富に含まれており、様々な料理の材料ともなる。
今ごろの季節になると、朝鮮半島のどこの地方でも数百キロ単位で大量に漬ける「キムジャン」が行われるものだったが、韓国ではキムチを買って食べる人が増えたため、キムジャンを行わない家庭も少なくない。一方、食糧の乏しい北朝鮮では、今でもキムジャンは非常に重要な年中行事だが、その様子に変化が生じつつある。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。
(参考記事:白菜の豊作で「餓死せずに済んだ」北朝鮮の人々)
平安南道(ピョンアンナムド)の情報筋は、キムチに欠かせない塩漬けの白菜を、家で作るのではなく、買う人が増えていると伝えた。
この塩漬けの白菜は、半分または4等分した白菜に粗塩を練り込み、半日ほど漬け込んで塩を洗い流すことでできるが、大量の白菜を漬け込まなければならないキムジャンの際には、非常に面倒な作業だ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面殷山(ウンサン)郡食品工場は今月11日から始まったキムジャンに合わせて、市場での塩漬けのキムチの販売を始めた。首都・平壌では昨年から始まっていたが、地方では今年が初めてだ。これを利用する人が多いと、情報筋は伝えている。
北朝鮮の各市、郡にある食品工場は、国から供給された原材料を元に、食用油や味噌などを生産し、住民に非常に安価な国定価格で販売するものだった。ところが、1990年代に従前の経済システムが崩壊したことで、原材料が入手できなくなったため、副業地(工場所属の田畑)で取れた穀物で酒や味噌を生産し、工場で決めた市場価格の「合意制価格」で販売するようになった。
国は原材料の供給をしないが、工場には計画(ノルマ)を課し、実績を出すことを要求する。それで悩んでいた工場幹部が考えついたのが、塩漬けの白菜の販売だ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面郡内の市場では、白菜1株が1500北朝鮮ウォン(約26円)から3000北朝鮮ウォン(約51円)で販売されているが、食品工場では塩漬けしたものを1株4000北朝鮮ウォンで販売している。
新義州(シニジュ)食品工場も、同様に塩漬けの白菜の販売を始めたと、平安北道(ピョンアンブクト)の情報筋が伝えている。
もともとは、金正恩総書記から子どもたちへのプレゼントであるお菓子セットや酒、味噌、醤油を生産していたが、キムジャンに合わせて塩漬け白菜を販売することで、利益を得ようというものだ。このような試みは初めてだ。
(参考記事:食糧不足でも金正恩の「お菓子セット」が重要視される北朝鮮)人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面
工場には以前から、塩漬け用のタンクや上下水道が完備されているため、白菜と塩さえ調達すれば塩漬け白菜はすぐに生産でき、大量生産であるため、価格も安くできる。
工場は、農場の幹部と話をつけて、白菜1株を1500北朝鮮ウォンで、西海塩田事業所から塩を1キロ100北朝鮮ウォン(約1.7円)で買い付ける。それで作った塩漬け白菜を市場で3500北朝鮮ウォン(約60円)で販売する。
家事や商売に忙しい女性たちの間で、白菜を塩漬けにする手間が省けるとして、非常に好評を得ている。
白菜が安くなった一方で、他の材料の値段が上がり、貧しい人々にとって美味しいキムチを大量に漬けることは難しくなった。それでも、キムジャンをすること自体を諦めざるを得ない状況だったコロナ禍から脱し、北朝鮮の人々の暮らしは徐々に落ち着きを取り戻しつつあるようだ。
(参考記事:トウガラシ価格が高騰、北朝鮮国民が頼る「代用品」とは)