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北朝鮮の穀物生産量は、1993年の913万トンをピークに減少を始め、1996年には259万トンまで激減した。その原因としては、旧共産圏からの援助が途絶えたこと、山を削って畑を作る全国段々畑化計画により、保水力を失った山で土砂崩れが多発したこと、そもそも生産量の報告が水増しされていたことなどが挙げられる。北朝鮮が未曾有の食糧危機「苦難の行軍」を迎えたのも、ちょうどこの時期だ。

その後は回復に転じ、2020年が440万トン、2021年は469万トン、2022年は451万トンを記録した。しかし、年間需要の575万トンには届いていない。

(参考記事:凶作続きの北朝鮮農業、打開策は「ホラ防止法」

その根本原因は、集団農業にある。全ての農民は協同農場に所属し、大規模農業を行い、収穫後に成績に応じて収穫物を得る。しかし、頑張った人も頑張らなかった人も同じ量を手にするため、農民は熱心に働こうとしない。削がれたやる気を補う農業機械も普及が遅れており、あったとしても部品や燃料の不足で満足に使えなかったりする。

同様の問題を抱えていた中国では1978年、安徽省のある村の農民18人が、人民公社(集団農場)の土地を家族単位で受け持って農作業を行った。すると目覚ましい成果が得られた。中央政府に報告されると、保守派からは「非社会主義的」「修正主義」といった激しい批判が浴びせかけられるも、当時の最高責任者の鄧小平氏がお墨付きを与え、このやり方が定着していった。これが改革開放の嚆矢となった。

北朝鮮では同様の制度の導入と廃止が繰り返されているが、大麦、小麦の栽培において一部地域でインセンティブ制度が導入された。デイリーNK内部情報筋が伝えた。

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(参考記事:北朝鮮、農民のインセンティブ制度を拡充も成功するか未知数

一部地域の農場では、金正恩総書記の指示に基づき、個々の農民の役割を高め、収穫量を増やすための「個人度級制」が導入された。度級制とは出来高払いを意味する。

対象となったのは、小麦と大麦を生産する農民だ。区分けした畑を任せ、目標量を示す。農民のほとんどが麦の栽培経験がないため、農民の意欲を高めて試行錯誤を促し、生産量を増やそうというものだ。

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対象となった畑では、農民6、国4の割合で収穫物を分ける。今までの同様の制度では農民3または4、国6または7だったのと比べると大幅に増えている。ただ、問題がないわけではない。

「1ヘクタールあたりの収穫量が少なくても、4割は無条件で持っていかれる」(情報筋)

例えば、国が計画量(ノルマ)として10トンを示したとして、実際の収穫量が10トンならば、4割の4トンを納めればいいが、5トンだったとしても4トンを納めなければならないのだ。

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これは、北朝鮮の農業が計画経済に含まれていることに由来する弊害だ。天変地異などの要因で収穫が減ったとしても一切考慮されず、国家計画委員会が示したノルマの達成を求められるのだ。

農民は種子代、灌漑設備や農業機械の利用料などの協同義務税を、得られた分け前から支払うことを求められる。また、ノルマ未達成による処罰を恐れた農場や地方幹部による虚偽報告が横行しており、それに基づいた現実離れしたノルマが課されることもある。さらにはトンジュ(金主、闇金業者)から借金をしている場合もあり、あれやこれやを引いていくと、農民の手元には何も残らないことになる。これではやる気も何もあったものではない。

(参考記事:実りの秋に借金取りに追われる北朝鮮の農場幹部

農民は多くを望んでおらず、最低限のことだけ守って欲しいと訴えている。

「国が約束した分配比率だけでも正確に守ってくれて、個人度級制の在り方を乱さないで欲しい」

北朝鮮の人々にとって国という存在は、自分たちを保護してくれるものではなく、搾り取り、痛めつけ、一切合切かっさらっていくもので、信用など全くない。朝令暮改が当たり前で、収穫量の6割を農民の取り分とする今回のやり方が守られる保障などないのだ。