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朝鮮半島で旧正月と並んで最も大切な祭日である秋夕(チュソク、旧盆)。旧暦で8月15日、新暦で今年は今月29日にあたるが、韓国では多くの人が帰省して離れて暮らす家族と再会し、先祖を迎える。

北朝鮮は1967年、社会主義生活様式に反するとして禁止したが、わずか5年でお墓参りが解禁され、1988年からは休日として復活した。宗教を迷信だとして禁止している北朝鮮も、秋夕ばかりは抑えきれなかったようだ。商人にとっては一番の稼ぎ時である。日本海に面した咸鏡北道(ハムギョンブクト)の港では、魚を運ぶ運送業者が大忙しだ。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

新浦(シンポ)周辺の港では、商品を目的地まで運ぶ運送業者がかなり儲けていると、現地の情報筋が伝えている。個人の車両の所有が禁止されている北朝鮮では、企業所や機関が一定の手数料と引き換えに名義貸しを行い、法的には企業所や機関の所属だが、実際には個人が所有しているという形を取っている。

取り締まりが行われたものの、全く実効性がなかったようで、コロナ対策としての国内移動制限が7月から部分的に解除された今、日本海で取れた魚を各地に運んでいる。

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移動制限のせいで、せっかく取れた魚も他の地方に輸送できず、販路が断たれた状態が続いてきたが、今では清津(チョンジン)の水南(スナム)市場に運ばれ、そこから首都・平壌郊外の平城(ピョンソン)市場に運ばれ全国に出荷されるルートが復活した。秋夕のお供物として欠かせないのが魚介類だが、今はイカが多く出荷されている。

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運送業者は、漁港に陣取って漁船が帰るのをひたすら待つ。入港すればすぐに魚を買い取って、国営の冷凍事業所の設備を借りて冷凍する。他の国営企業と同様に、個人業者に設備を貸し出し、国定価格ではなく市場価格で料金を受け取り、運営費用とするのだ。

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そして、携帯電話で他地方の商人と値段交渉を行い、話がつけば24時間以内に輸送する。その費用は先払いだ。10トンの商品をトラックで運ぶ場合、160キロの距離で100ドル(約1万4900円)だが、ガソリン代の相場や輸送量に応じて多少変化する。

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出荷先は国内にとどまらない。

北東部の羅先(ラソン)で商売をしている情報筋は、日本海で取れるようになったイカを冷凍したものと乾物にしたものを、先月から陸路で中国に輸出していると語った。中国朝鮮族も同じように秋夕を祝うため、この時期にはイカや毛ガニ、大きなエビなどの注文が増えるのだ。生きたままで清津港で氷を入れて箱詰めして、羅先市場に運び、そこから輸出する。

海産物は、国連制裁に基づく禁輸品となっているが、中国当局は特に介入はしない模様だ。

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かつては魚介類を港で買い付けた業者、そこから買い取った業者の双方がトラックに同乗して運んでいたが、今ではドライバーに相手の住所と携帯番号を渡すだけで、業者が移動することはなくなった。届けたことを携帯電話で知らせてくれるため、非常に効率的な輸送ができるようになり、無駄なコストもかからなくなった。

漁船を所有しているのは、政府機関や軍の傘下にある水産事業所で、国から1年の漁獲量のノルマを下されるが、燃料や船の部品は供給されない。そこで、水揚げしたものを民間業者に販売して、運営経費に当てるのだ。

国は、過去30年間に進んだ市場経済化に歯止めをかけ、1990年代以前の計画経済に戻す目論んでいるようだが、移動規制の撤廃で、一時は息の根が止められようとしていた市場経済が、再び息を吹き返している。結局、民の力を借りなければ北朝鮮経済は動かないようになってしまっているのだ。

(参考記事:本腰を入れて市場を潰しにかかる北朝鮮の「計画経済回帰策」