北朝鮮の金正恩総書記は2015年1月に発表した「新年の辞」で、「すべての工場、企業所が輸入病をなくし原料、資材、設備の国産化を実現するための闘争を力強く繰り広げ、党の掲げた典型単位に学び自らの姿を一新させねばなりません」と述べている。これをきっかけに輸入病根絶と同時に国産品愛用キャンペーンが繰り広げられた。
しかし、一部の製品を除き、国産品は北朝鮮の消費者に受けが悪い。質が低いことに加え、何よりも価格競争力の劣ることが理由だ。最近、国産のサンダルが市場に出回るようになったが、あまり売れていないと、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。
(参考記事:北朝鮮、国産化を強調…「輸入病にかかれば他人に依存する馬鹿になる」)
最近出回っているのは、首都・平壌にある柳原(リュウォン)履物工場製のスニーカーだ。国営の朝鮮中央通信は今年1月、次のように報じている。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面好評を博する柳原履物工場の製品
【平壌1月20日発朝鮮中央通信】柳原履物工場(平壌)で生産する各種の運動靴が、青少年と勤労者、スポーツマンの間で好評を博している。これらの運動靴は、軽くて弾力があり、質がよくて最近行われた展示会で人気を博した。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面誰もが好んで購入する「リュウォン(柳原)」履物の製品にも、人民に良質の消費財をより多く与えようと気遣う敬愛する金正恩総書記の献身の労苦が宿っている。
金正恩総書記はチュチェ104(2015)年1月のある日、柳原履物工場を訪れた。
この日、工場で履物生産の多種化、多様化、多色化を実現することに関する朝鮮労働党の方針の貫徹で多くの成果を収めたことについて高く評価した金正恩総書記は、良質の一般消費財を円滑に保障する問題は単なる経済実務的な事業ではなく、われわれのものを大切にして守り、われわれの体制の優越性を誇示する重要な問題であると強調した。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面そして、軽工業部門の工場、企業では試作品やサンプルをつくって展示したり、商店に陳列するのにとどまらず、生産を正常化し、製品の質を絶え間なく高めて人民が実際におかげを被るようにしなければならないと述べた。
その後、金正恩総書記の指導によって能力の大きい近代的な履物生産拠点に転変した同工場では、毎年、各種の運動靴と種目別専門スポーツシューズを生産している。
現在、柳原履物工場の活動家と従業員は人民が実際におかげを被るように良質で格好のいい履物をより多く生産して、党中央委員会第8期第6回総会が示した課題を決死の覚悟で貫徹するという熱意に満ちている。---
金正恩氏が高く評価し、国産品として競争力を持つ数少ない製品を生産しているというわけだ。平安南道(ピョンアンナムド)の情報筋は、この工場で製造されたメッシュのスポーツサンダルが市場に入荷したと伝えた。輸入品のようにデザインが良く、靴底もしっかりしているため、消費者の目には止まる。しかし、値段を聞いて皆一様に踵を返すという。
1足のお値段は20ドル(約2830円)。北朝鮮ウォンでは16万6000ウォン。コメが30キロ、トウモロコシなら83キロも買える大金だ。日々の糧にも事欠く今の北朝鮮の一般庶民にとって、所詮は「絵に描いた餅」に過ぎないのだ。
平安北道(ピョンアンブクト)の別の情報筋も、柳原履物工場の製品は、中国製よりも品質が良いが、値段が高すぎて手が出せないという。
故金正日総書記の呼びかけで、1980年代後半に建設された柳原履物工場は、2017年の金正恩総書記の視察後に設備を更新し、通気性の高い新しいデザインの製品の開発に成功し、評価されている。
お値段は、平壌百貨店では1足6ドル(約850円)、郊外の平城(ピョンソン)の市場では12ドル(約1700円)もするとのことだ。そこでサンダルを仕入れた商人は、地元の市場で20ドルで販売するのである。
北朝鮮でいちばん豊かな平壌で、最も安く買えるというのはなんとも理不尽な話だが、6ドルでも充分に高い。その理由を情報筋は次のように説明した。
「サンダルのレザーは平壌紡績工場で生産されたものと輸入品で、靴底はすべて輸入品の生ゴムを使っているので、高くなるしかない」
良質な商品を生産している柳原履物工場だが、販売不振に苦しんでおり、キャッシュフローが円滑に行われないことから、設備があまり稼働できていないという。
北朝鮮は、豊富な鉱物資源を輸出して得た外貨で原材料を輸入し、国産品の生産を行っているが、それでは価格が高くなりすぎて、中国製に価格競争力で負けてしまう。また、国連安全保障理事会の制裁決議案により、鉱物資源の輸出もできなくなっている。かくして、市場で販売されるものの9割が中国製で占められる結果となっている。
また、農作物の栽培に必要な肥料も、多くを輸入に頼っている。国内生産分だけでは賄い切れないからだ。ミサイル部品から日々のおかずに至るまで、貿易をしなければ調達できないのが北朝鮮の現状だ。
(参考記事:「盗むほかなかった」北朝鮮の農場から消える肥料)設備の更新などで生産性を向上させることは可能でも、その部品も輸入しなければならない。すべてを国内産で賄うという「自力更生」は、現実を度外視した妄想に過ぎないのだ。
(参考記事:【北朝鮮幹部インタビュー】「輸入だけでなく輸出もしたい。複数の貿易ルート再開を」)