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北朝鮮の肥料生産能力は年間224万9000トン(韓国統計庁のデータ)。一方、北朝鮮で1年間に消費される肥料の量は155万トン(農業専門家の推計)だ。ならば、肥料が余っているかといえば、そんなことはない。

北朝鮮で実際に生産されている肥料の量は年間50万トン。つまり、需要の3分の1しか生産できていないのだ。肥料工場の周辺では各地の協同農場から担当者が数カ月間、肥料の受け取りを待ち続けるという光景が見られた。

(参考記事:ダーティマネーが飛び交う北朝鮮の熾烈な「肥料争奪戦」

肥料の不足だけではない。人手も足りなければ機械も燃料も、農民の食べ物も足りない。国は農業機械を送り込み、ガソリンまで供給するという大盤振る舞いをして、穀物増産を求めているが、それは一部だけの話だ。多くの地方では依然として様々な物資が不足しており、窃盗や横流しもその傾向に拍車をかけている。黄海北道(ファンヘブクト)のデイリーNK内部情報筋が現場の様子を伝えた。

(参考記事:豊作を目指す北朝鮮の前に立ちはだかる「史上最悪の梅雨」

今年2月、甕津(オンジン)郡にある協同農場の作業班の農薬倉庫から肥料が盗まれそうになる事件が起きた。盗もうとしていたのはこの農場に所属する50代のパクさん。それを見つけた分組長は「二度とこんなことはするな」と厳重注意しただけで、通報はしなかった。

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そして5月中旬。パクさんが地元の安全部(警察署)に逮捕された。容疑は肥料の窃盗容疑。取り調べでパクさんは「コロナ後のモノ不足と自然災害などで収穫が落ち、一年中トウモロコシ粥すら満足に食べられない状況が続いた。個人の畑でも熱心に耕さなければ農民は何も食べられない、カネもないので肥料を盗むほかなかった」と陳述した。今回は2回目とあって見逃してもらえず、6カ月の労働鍛錬刑(懲役刑)が言い渡された。

黄海に突き出た半島からなる甕津郡だが、沖には韓国領の島々が並ぶ。わずか10数キロ先には食べ物が溢れているのに、指を加えて見ているしかないのだ。なお先日、飢えに耐えかねた末に、木造船に乗って脱北に成功した2家族9人は、甕津の東隣の康翎(カンリョン)から出港した。穀倉地帯として知られる黄海北道でこの状況なのだから、他の地方の飢餓はさらにひどいだろう。

(参考記事:「木造船脱北」成功を北朝鮮国民が祝福…「自分のことのように嬉しい」

情報筋によると、この農場は中国製の肥料を使い続けてきた。近隣の肥料工場はずっと前から操業停止に追い込まれていたからだ。なお、国内製であっても材料の多くは中国製だ。ところが、常軌を逸したゼロコロナ政策で輸入が完全に止められ、中国製の肥料すらも入ってこなくなり、価格は高騰した。わずかに残された国産肥料も非常に高価で、農民たちは自分たちの個人耕作地に使うために、農場から盗み出している。

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情報筋は「国家は肥料の問題一つ解決できないくせに、1ヘクタールあたりの収穫量を増やし、食糧問題を自主的に解決しようだなんて呆れる。収穫量を増やすならそれに必要な根本的な問題から解決して人々を奮い立たせてこそ効果がある」と嘆いた。

肥料のみならず、北朝鮮は中国への依存度が非常に高いという形の「チャイナ・リスク」を抱えている。ゼロコロナ政策で輸入を止めたことで深刻な飢えが発生した。当初は自力更生を叫ぶばかりだったが、現在では食糧を大量に輸入していると伝えられる。結局、現状において自力更生など妄想に過ぎないのだ。

(参考記事:北朝鮮有数の肥料工場、コロナ鎖国で部品がなく生産中断