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北朝鮮の国営米屋こと「糧穀販売所」。コメやトウモロコシなどを市場より安く販売することで、市場に奪われてしまっていた流通の主導権を国の手に取り戻そうとする流れの一環で、開店休業状態となっていたものを復活させたものだ。

糧穀販売所では自由に穀物が買えるわけではなく、制限がある。少ない入荷量をやり繰りすると同時に、価格差に目をつけた転売を防ぐための措置だ。しかし、その制限が、両江道(リャンガンド)恵山(ヘサン)では緩和された。詳細を現地のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

(参考記事:コントロールしようとした市場に翻弄され続ける「金正恩の米屋」

以前は1世帯あたり5キロの販売制限があったが、今月5日から25キロまで緩和された。配給の場合、1日700グラム(一般的な労働者のケース)、30日なら21キロだが、それを超える量が買えるようになった。4人家族なら充分ではなくとも、生きてはいける量だ。

情報筋によると、輸入されるコメが増えたことにより、制限が緩和されたようだ。

市内の恵新洞(ヘシンドン)の糧穀販売所では、輸入されたコメが1キロ5500北朝鮮ウォン(約93.5円)で、市場での販売価格と比べて300北朝鮮ウォン(約5.1円)しか変わらない。とはいえ、25キロも買うとなるとその差は大きい。

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(参考記事:餓死者発生の北朝鮮に大量流通し始めた「ロシア産小麦粉」

だが、恵山市民の食糧事情は、糧穀販売所の販売制限緩和で好転したわけではない。そもそも、そんなに大量のコメを一度に買えるほどの収入がなく、市場と異なり、糧穀販売所ではツケが効かないのだ。

「最近はほとんどの市民が1キロ3000北朝鮮ウォン(約51円)のトウモロコシですら買い求めるのが困難で、5000北朝鮮ウォン台のコメを買おうとは思わない。糧穀販売所での販売価格が市場とほとんど変わらないからだ」(情報筋)

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結局、経済的に余裕のある人だけが糧穀販売所でコメを安く買って得をしている。これでは金持ち優遇策と変わらない。貧しい一般庶民が買ったとしても、わずかな差額を儲けるための転売目的だろう。情報筋は、販売制限の緩和ではなく、商売ができるようにすることの方が、根本的な対策だと言う。

恵山をはじめとした両江道や、咸鏡北道(ハムギョンブクト)の中国国境沿いの地域に住む人々は、中国から密輸した様々な品物を内陸地方に卸すことによって、生計を立ててきた。それが、コロナ対策の国境封鎖でできなくなり、いずれの地域も深刻な不況と貧困、食糧難に襲われている。

当局はコロナをきっかけにして、上述の穀物流通の主導権のみならず、貿易の主導権も取り戻そうとしている。しかし、一切の生活対策が行われないままで、社会構造の根本を変える「人体実験のような社会実験」を行っているも同然。

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国際社会の制裁対象となり輸出が困難になっている鉱業と、密輸を含めた貿易、商業くらいしか産業のないこの地域の現状を無視して、理想を追い求める今のやり方がいつまで続くのだろうか。

(参考記事:国家がどう頑張っても押し戻せない北朝鮮の「市場経済化」