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北朝鮮では元々、コメは国から配給されるものであって、市場での売買は禁じられていた。しかし、1990年代後半の大飢饉「苦難の行軍」を前後して配給システムが崩壊。コメが市場で扱われるようになった。市場の成長を嫌った故金正日総書記は、コメ販売禁止令のみならず、巨大化した市場の閉鎖命令を出すなど統制を強めた。

その際たる動きが、2009年に行った貨幣改革(デノミネーション)だ。旧紙幣を銀行に預けさせ、新紙幣の引き出し額に上限を設け、市場経済に蓄積した富を無効化し、経済の主導権を国の手に取り戻そうとした。

財産のほとんどを国に奪われることとなった北朝鮮国民は猛反発し、ハイパーインフレが起きて経済は大混乱。自暴自棄になって暴動を起こしたり、脱北したりする人も相次ぐなどして、治安は極度に悪化した。その影響は何年も続いた。

金正恩総書記は、その失策を目の当たりにしたせいか、市場に対する積極的な抑制策を取ろうとしなかったが、数年前から態度を徐々に変え、穀物流通の主導権を再び取り戻そうとしている。

その一環として各地に設けられたのが国営米屋こと「糧穀販売所」だが、さほどうまく行っていないとの情報が以前から伝わっていた。現在は、市場の状況に振り回されているようだ。

(参考記事:経営に大失敗「金正恩の米屋」が全国で続々閉店

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複数のデイリーNK内部情報筋によると、北朝鮮当局は穀物の貯蔵方法、販売価格、販売日時、客1人あたりの販売量、資金の管理、当局への入金に関する規則など、運営ルールを毎月、各地の糧穀販売所に指示している。ところが時には、1カ月に2回以上ルール変更が起こることもある。

最も変動が激しいのは、販売価格と1人あたりの販売量だ。当局が一方的に価格を決めて糧穀販売所に指示しているが、本来は市場より若干安く販売することになっているところが、ほぼ同じ価格になったり、極度に安くなったりしてしまう。

この価格を決めるのは、内閣の農業委員会、経済発展委員会、国家計画委員会の3つの機関だ。元々は国定価格を決める機関だが、穀物販売の主導権を市場に握られていたため、国定価格は有名無実化していた。

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各地域の人口分布、穀物収穫量、販売可能な穀物の量などを元にして、どれほどのコメをいくらで売るかで決めるのだが、平野地帯と山間部、都市部と農村部など各地域で市場でのコメの販売価格が異なるのに、当局は一括して決めるため、市場の販売価格との格差が生じてしまうのだ。そもそもこれらの機関は、全国の米価情報を瞬時に把握する能力にも欠けている。

そんな状況を受けて、販売価格を全国一括で決めるのではなく、価格の上限と下限を決め、各道・市・郡の人民委員会(道庁、市役所)と農村経理委員会が地域の状況に応じて調整できるようにルールを変更した。価格決定権をある程度「地方分権」したということだ。

全国に280カ所存在する糧穀販売所だが、当局は購入者の家族構成、職場、配給の有無などを確認して、転売や買い占めを防ごうとしているようだ。ちなみに本来の規定どおりの配給の量は、一般労働者の場合、1日あたり穀物700グラム、小学生の場合は1日あたり400グラムになる。

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これを超えての販売をしないようにしているが、それ以前に、糧穀販売所に入荷する穀物の量が常に不足しているため、1カ月に5日分のコメしか買えないように制限している。

元々の計画では、コメなどの穀物を市場より安く供給することで、穀物販売の主導権を取り戻すつもりだったが、農民は糧穀販売所にコメを売ろうとしない。市場商人の買取価格より安いからだ。

(参考記事:農民を貧困に、市民を飢えに追い込む北朝鮮の「国営米屋」

また、たった5日分だけであっても、市場に転売した方が儲かる状況では、転売を止める手立てはないだろう。北朝鮮の庶民は、一般的にコメを市場の米屋でツケで購入するが、糧穀販売所ではツケが効かない。転売目的でなければ、糧穀販売所で購入するメリットはないのだ。

「見えざる手」によって決められるコメなどの穀物価格を、人間が意図的に操作しようとしても限界があるのは自明のこと。ましてや主導権を市場に奪われ、農民からコメを売ってもらえない北朝鮮当局が、すべてをコントロールしようとするのには無理がある。それでも国の方針とあって、糧穀販売所や上級機関の担当者は、そんな「無理ゲー」を続けなければならないのだ。