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北朝鮮の通り沿いに立ち並ぶ様々な店舗。八百屋、食堂、薬局などなど。しかし、一部を除いていずれもひとけがない。開店休業状態だからだ。

いずれの店も国営商店で、国家計画委員会が決めた量の商品を販売し、決められた額の利益を国に納めることになっているが、そもそも商品が供給されないのだ。というのも、工場も多くがやはり開店休業状態だからだ。

そこで編み出されたのが、民間への運営権の貸し出しという手法だ。市の商業部に毎月上納金を納めて営業許可と国営商店の名義を借りた商人は、店舗を借りて家賃を払う。国営商店は、その家賃を国に納めて、ノルマを達成したことにするのだ。このような方式は工場でも行われていた。生産が行えるように設備を貸し出すのだ。

せっかくうまく行っていたこの方法だが、1980年代以前のような社会主義計画経済の復活を目論む中央は、こんな命令を出した。

「11月1日から国営商店を通じて得られる収益はすべて国庫に納めよ」

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それでは儲けが全くないと、商人たちは店を去ってしまった。それから半年あまり。状況は元の状態に戻りつつある。両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

(参考記事:「三方よし」の共生システムを壊し全員が損をする北朝鮮の経済政策

恵山(ヘサン)市内の国営商店は最近、仕入れの手腕がある人を販売員として雇い入れている。販売員は、自分で仕入れた商品を販売し、毎月、国営商店に一定額を納めている。細かい違いはあるかもしれないが、結局は元の状態に戻ってしまったのだ。

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かつて、1カ月に1500元(約3万円)から2000元(約4万円)を納めることを求められていたが、市内の各商店が次々に同じ手法に乗り出したことで、売り手市場となり、今では収益とは関係なく食品なら500元(約9900円)、工業製品なら800元(約1万6000円)さえ出せばいいということになった。

販売員は喜んでいるかというと、必ずしもそうではない。上納金の額が下がったのは、商売がうまくいかないからというのが情報筋の説明だ。

商人はかつて、対岸の中国から密輸した品物を販売していた。品物を買う側の消費者も、密輸に携わっている人が多かった。しかし、2020年1月の国境封鎖、防疫停止、国境警備強化で、密輸が非常に困難になってしまった。その後、儲けはおろか、日々の糧にも事欠く状態となった。誰もがそのような有様となり、物が売れなくなってしまった。

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それでも、販売員として店に入ろうとする人々には、思惑がある。

「人々は、貿易が再開されれば、中国から品物を取り寄せて儲けられるという期待感から、資金を投じて販売員として店に入ろうとしている」(情報筋)

条件の良い店に入ろうとするなら、国営商店の責任者や恵山市商業部門のイルクン(幹部)に5000元(約9万9000円)のワイロを支払わなければならない。それほど期待感が大きいのだが、不安もある。

「もし貿易が再開されなければ、ワイロとして渡した巨額のカネに加え、毎月の上納金をどうやって作るのか」(情報筋)

北朝鮮は、国が貿易を司る「国家唯一貿易体制」の樹立の目指している。今まで、企業や個人がてんでバラバラに貿易をやってきた体制を否定し、何をどれだけ輸入、輸出するかを国が決めるというものだ。

恵山の税関はまだ開かれていないが、「すべてを国の主導のもとにやるような空気を作ったのに、結局元に戻りつつある」(情報筋)ということだ。

原材料の需給、消費者の心理、嗜好、流行、気候条件などを全く考慮せずに策定された計画をもとにして経済を運営する計画経済、中でも旧ソ連式の中央集権型計画経済は、すでに何十年も前に欠陥が明らかになり、今ではどこの国でも採用していない。

北朝鮮は、それへの回帰を目指しているようだが、商業部門でも早速失敗したということだ。

(参考記事:地域経済を破滅に追い込んだ北朝鮮の「貿易独り占め政策」

市場に奪われた穀物販売の主導権を国の手に取り戻そうとする政策も、その一環と思われるが、あまりうまくいっていない。

今さら計画経済体制に戻そうとするのは、配給など国からの恩恵を受けたことがなく、自分の力で生き抜いてきた「チャンマダン(市場)世代」と呼ばれる若者が、旧態依然とした社会にNOを突きつけていることに恐怖を感じているからだろう。しかし、一度動き始めた「市場経済化」という名の汽車を止めるのは非常に困難なことなのだ。

(参考記事:コントロールしようとした市場に翻弄され続ける「金正恩の米屋」