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北朝鮮では、当局の度重なる禁止令にもかかわらず、外貨が広く使用されている。北朝鮮ウォンに信用がなく、最高額紙幣も5000北朝鮮ウォン(約80円)で使い勝手が悪いからだ。

タンス預金をする場合には、「トンデコ」と呼ばれる闇両替商を訪れて外貨に両替をして、使う場合には少額をまた北朝鮮ウォンに両替するのが一般的だ。当局はこのトンデコの取り締まりを進めている。咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

咸鏡南道(ハムギョンナムド)にある北朝鮮第二の都市、咸興(ハムン)市の安全部(警察署)は、今月に入ってから違法な両替、中国や韓国、あるいは国内の送金を請け負う「トンデコ」への取り締まりを強化している。「トンデコジャン」と呼ばれる闇両替商が集まる区域に立っているだけで、理由を問わず連行、勾留するほどだという。

また、今までならまず捕まることのなかった大物のトンデコの自宅を抜き打ちで家宅捜索し、本人のみならず、繋がりのある中小のトンデコまで逮捕し、恐怖心を煽る手法も動員している。

また、中国との国境に面する会寧(フェリョン)市の安全部も、大物のトンデコ2名を逮捕し、自宅から多額の現金を押収した。一連の逮捕劇によりトンデコはすっかり萎縮してしまい、路上ではほとんど見かけなくなった。ごく一部のトンデコが自宅で密かに両替に応じているとのことだ。

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北朝鮮は、以前のように地方の貿易会社や個人がてんでバラバラに貿易する体制ではなく、国が貿易を司る「国家唯一貿易体制」を打ち立てようとしている。これと同時に、外貨管理に関しても国主導で行おうとしており、取り締まりはその一環と見られる。

上述の通り、北朝鮮で両替を行うには「トンデコ」を利用するのが一般的で、国内で流通する外貨の額は誰にもわからない。それを国が一元管理することで、外貨保有高を正確に把握しようというものだ。

(参考記事:ついに庶民から外貨を「カツアゲ」…追い詰められた金正恩

国は、取り締まりと同時に、外貨両替や送金をするなら銀行で行うように宣伝しているが、そんなものに従う人はまずいない。

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まず、送金手数料が高い。銀行は送金額の5%を送金手数料として徴収するが、トンデコなら3%で済む。極度のゼロコロナ政策により深刻な経済難に陥っている北朝鮮で、1ウォンでも安いほうを利用するのは当たり前の選択だ。

次にレートが悪い。銀行で使われる北朝鮮の公式レートは1ドル(約135円)が200北朝鮮ウォン程度。一方、トンデコを利用する場合にはその40倍の8000北朝鮮ウォンと、銀行を使えば大損をしてしまう。

それだけではない。国営の銀行を利用したり、全財産を預けたりすれば、保有している財産の額が当局に筒抜けになり、どんないちゃもんをつけられて財産を奪われるかわからないからだ。

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そして、北朝鮮の人々は2009年に行われた貨幣改革(デノミネーション)の際、旧紙幣を銀行に預けさせられ、新紙幣の引き出し額に制限をかけられて財産を失ったことがトラウマとなり、銀行のことを全く信用しておらず、利用しようとしない。

摘発されたトンデコは運が悪かったが、生活や商売に欠かせないトンデコはほとぼりが冷めれば息を吹き返すだろう。実効性がなく、現実とかけはなれた机上の空論的な政策は、現場で自然に無効化されていく。市井の人々が30年をかけて築き上げた市場経済は、金正恩総書記と言えども、そう簡単には崩せないのだ。

(参考記事:北朝鮮国民が「金正恩の銀行」を断固拒否するもっともな理由