北朝鮮では、米ドル、中国人民元などの外貨が日常生活で広く使われている。北朝鮮ウォンは使い勝手が悪い上に、信用がないためだ。
当局はしばしば外貨使用禁止令を出すが、現実に即していないため、そのたびにうやむやになってしまう。今月にも同様の指示が出されたが、国民からは案の定、反発を食らっている。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。
(参考記事:実効性ゼロの「外貨使用禁止令」を出し続ける北朝鮮)咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋によると、今月に入り、全国的に外貨使用が禁止され、「米ドルや中国人民元を持っている場合には問答無用で没収する」との中央の指示が、清津(チョンジン)市内の各人民班(町内会)を通じて伝えられたと述べた。
労働者糾察隊(民間人からなる取締班)や安全部(警察署)巡察隊は、街角で市民の荷物検査を行い、外貨が見つかったら全額没収し、入手の経緯と使い道を問いただしているという。
(参考記事:「金持ちまで餓死」北朝鮮国民がさまよう阿鼻叫喚の巷)
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面平安北道(ピョンアンブクト)の情報筋も、道端に並んだ糾察隊と巡察隊が、通りかかる市民を獲物のように待ち構え、外貨を奪おうと血眼になっていると伝えた。国による「カツアゲ」と言っても過言ではないだろう。
当局は、市場の一角に両替所を設け、市民のタンス預金から外貨を引き出そうとしている。取り締まりを避けるために、しかたなく両替するを人もいるが、ほとんどの人はこのやり方に非常に否定的だという。
北朝鮮ウォンは、ボロボロになった紙幣が多く、破れたところを糊などで修復するのが非常に面倒だ。大口の商いを営む商人や闇両替商は、その作業のために、賃金を払ってわざわざ人を雇うほどだという。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面また、最高額紙幣が5000ウォン(約80円)で使い勝手が非常に悪い。同じ額でも中国の100元(約1910円)なら1枚の紙幣で済むが、北朝鮮ウォンなら5000ウォン紙幣が24枚になってしまう。
「一部の人は当局の取り締まりを避けようと、北朝鮮ウォンを少額だけ両替して使用したふりをしている。ほとんどの人はボロボロの紙幣を交換する余力もない当局が、外貨を使うなといえる立場かと、外貨使用禁止令に反発している」(咸鏡北道の情報筋)
今回の外貨使用禁止令について、かつて北朝鮮で外貨関連の業務に携わったことのある脱北者は、貿易再開に向けた措置だと見ている。つまり、輸入に必要になる外貨をできるかぎりかき集めようというものだ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面当局は外貨商店、高級レストラン、健康ランドなど様々な商業施設で、国民に外貨を使わせて、国庫に吸収する方式を取っていた。しかし現在の経済的苦境で、多くの人は財布の紐を固く締めている。それなら力ずくで奪うしか方法がないというところまで追い詰められているのだろう。
しかし、過去に外貨使用禁止令を出して厳しい取り締まりを行ったときには、貨幣そのものの流通量が減ってしまい、経済にダメージが出てしまった。実効性がなかったり現実に即していなかったりする命令の類は、数カ月程度でうやむやになってしまうのが北朝鮮の常だ。今回もやはり、そのような顛末をたどる可能性が高い。
(参考記事:液晶テレビの転売に飛びつく富裕層、北朝鮮の深刻な格差社会)