金持ちも餓死「希望拷問」に苦しむ北朝鮮の人々

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中国との貿易に頼ってきた北朝鮮の国境沿いの地域。しかし、2020年1月、極端なゼロコロナ政策を取った北朝鮮当局は、国境を封鎖、貿易をすべて停止させた。

主要産業を突如として奪われたこれら地域では、追い打ちをかけるかのようにロックダウン(地域封鎖令)が繰り返し行われ、貧困層はもちろんのこと、富裕層ですら生活に困窮し、餓死者を出すほどの状況となっている。

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一部で貿易は再開されたものの、依然として限定的。国境沿いの地域の人々の望みは、国境の再開だ。その期待から度々、噂が飛んでいる。両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

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道内最大都市の恵山(ヘサン)市内では先月末、「3月15日に大紅湍(テホンダン)郡の三長(サムジャン)税関が再開される」との噂が飛び交った。一度は消えたものの、最近になって再び流れるようになった。

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デイリーNKは昨年12月、政府が恵山税関に対して、貿易再開に必要な「防疫場の建設を承認する」との指示を下した、これに基づき今年2月から貿易が再開されるとの、現地の情報筋からの情報を報じた。

しかし、今月になっても恵山税関は開かれず、その代わりに三長税関が開かれるとの噂が広がった。

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噂の信憑性や根拠は不明だが、地域住民がいかに国境の再開を切実に望んでいるかが噂となって現れたようだ。

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「市民は、恵山でも三長でもどちらか一つでもいいから開かれることを待ち望んでいる。税関が開かれてようやく中国から商品が入ってくるようになり、流通が活性化し、市場で商売ができるようになるから」(情報筋)

この地域の住民の多くは、中国との公式の輸出入、密輸、それら商品を他の地方で売買することで生計を維持してきた。国境の再開に期待を持つのは非常に当たり前のことだ。

また、地域の貿易会社も、貿易拡大のために国境再開に向けて準備万端だ。輸出品の確保に全力をあげ、三水(サムス)郡、金正淑(キムジョンスク)軍の外貨稼ぎ事業所も、確保した輸出品の品質チェックに余念がない。

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しかし、同様の噂が流れるたびにぬか喜びさせられてきた市民は、今回の噂も「今回こそは本当に開かれるのか」「また根拠のない噂じゃないのか」と半信半疑で受け止めている。

「税関が開かれるという噂は、生活の苦しい人々にとっては『希望の拷問』だ。国境が再開されれば、今のような悲惨な生活からなんとか抜け出せるという希望でなんとか持ちこたえているが、今回も開かれなければもう耐えられない」(恵山市民)

国はコロナを完全に防ぐとの名目で国境を完全封鎖したが、もし開かれるとなれば、どこかに穴ができて、皆が皆、先を争って密輸に乗り出すだろう。国境封鎖で密輸を完全なシャットアウトに成功した国にとって、国境再開は悩みのタネだろうと、情報筋は見ている。

国は、コロナ前のように、各地域の官民がてんでバラバラに輸出入を行っていた状況への回帰ではなく、国が貿易を司る「国家唯一貿易体制」の確立に躍起になっており、「貿易再開などに期待するな」などと噂を否定している。

(参考記事:北朝鮮当局も抑え込めない「3月に貿易を全面再開」説への期待

当局は貿易のみならず、北朝鮮経済を主導してきた市場の機能を抑え込み、1980年代以前のような社会主義計画経済に戻そうとしている。市場経済はその補完という位置づけに納めようと、様々な施策を編み出している。

その一つが、穀物流通の主導権を国の手に取り戻すための、国家穀物流通網の構築だ。協同農場から市場を経て消費者に届くのではなく、協同農場から国の機関を介して消費者に届けるという、過去の体制への回帰だ。しかし、収入が減ることを嫌った農民によるサボタージュなど、様々な抵抗に遭っており、計画が順調に進んでいるとは言い難い。

同じように貿易も、必要なものを国の機関を介して必要な分だけ輸入し、市場で売られる製品の9割近くが中国製という現状を打破したいようだが、そのしわ寄せは、市場での商売で生計を立てている庶民に向かう。

川を挟んでわずか10数メートル先には物資のあふれる中国があるのに、他のルートから輸入して、遠く離れた地域で加工して、貧弱な交通網を使って届けるからそれまで指を加えて待っていろというのは、貿易に頼って過去数十年生きてきたこの地域の人々には荒唐無稽な話だ。

(参考記事:経営に大失敗「金正恩の米屋」が全国で続々閉店