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かつて北朝鮮では、食料品や生活必需品などありとあらゆるものが配給されていた。配給は、所属する職場を通じて行われ、贅沢とは言えなくとも、人々は安定した生活を営めていた。

そんな配給システムが崩壊したのは、1980年代。故金日成主席は、ソウルオリンピックに対抗すべく、第13回世界青年学生祝典を平壌で開催した。多くの若者を受け入れる施設の建設に莫大な予算を注ぎ込んだため、クビが回らなくなった。共産圏諸国が相次いで崩壊して援助が受けられなくなり、自然災害も多発。生きる術を失った人々は、次々に餓死していった。いわゆる「苦難の行軍」だ。

それ以降、完全な形で配給システムが復活することはなかったが、最近になって一部の巨大国営企業で、復活の兆しが現れている。従業員やその家族からは歓迎されると思いきや、逆に不満の声が上がっている。詳細を、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

平安南道(ピョンアンナムド)の情報筋は、道内の安州(アンジュ)にある南興(ナムン)青年化学連合企業所で今年9月から、国による食糧配給が始まったと伝えた。

これは従業員とその家族を対象としたもので、輸入米6、国内産トウモロコシ4の割合の穀物など、1ヶ月分の食糧を一度に配給する。従業員本人は1日あたり600グラム、扶養家族は3〜400グラムだ。夫婦と子ども2人の4人家族の場合なら、1日あたり1.6キロが受け取れる計算だ。ちなみにコメ1キロは46北朝鮮ウォン、トウモロコシは23北朝鮮ウォンと、いずれも1円に満たない国定価格で、市場価格の100分の1以下だ。

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情報筋によると、食糧配給の正常化は、国家経済発展に重要な位置を占める重化学工業、軍需工場に限って行われる。安州市内では、化学肥料を生産する南興青年化学連合企業所、軍需品を生産する安州ポンプ工場、朝鮮労働党機関紙・労働新聞の新聞紙を生産する121号工場が対象となっている。

(参考記事:「もう耐えられない」北朝鮮の軍需工業地帯で響き渡る悲鳴

平安南道の別の情報筋は、順川(スンチョン)化学連合企業所とリン酸肥料工場でも、食糧配給が行われていると伝えた。その理由は、中央が推し進めている炭素化学工業部門で重要な位置を占めているからとのことだ。

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従業員やその家族から好評かと思いきや、不満の声が上がっていると情報筋は伝える。食糧配給の代償が重いからだ。

「工場当局は、労働者の出勤状況の取り締まりを強化し、毎日夜間の残業を強い、組織生活(思想学習などへの参加)を強化しており、労働者は苦しめられている」(情報筋)

(参考記事:空腹と「ブラック労働」でバタバタ倒れる北朝鮮の農民

北朝鮮の国営工場では、一定額のワイロを上司に支払い、出勤扱いにしてもらい、空いた時間で市場での商売などを行う「8.3ジル」という行為が行われてきた。出勤状況の取り締まりが強化されると、それもできなくなる。ついにはこんな声すら上がっている。

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「いっそのこと、国の配給を受け取らず、定時に退勤して個人の商売を熱心にやって食糧を自分で買って食べるほうが楽だ」(情報筋)

食糧配給と共に支給される月給は、月3000北朝鮮ウォン(約54円)前後。子どもの小遣い銭ほどの額に過ぎない。市場での商売で月給より遥かに多い現金収入を得て、自分の買いたいものを自由に買える市場経済に慣れきった人々は、計画経済への回帰を望んでいないようだ。

(参考記事:「三方よし」の共生システムを壊し全員が損をする北朝鮮の経済政策