中国との国境に接する北朝鮮北部の両江道(リャンガンド)で先月23日、4人の発熱患者が発生した。国家非常防疫司令部は、悪性伝染病(新型コロナウイルス感染症)の疑いがあるとして、25日に該当地域に対して封鎖(ロックダウン)の措置を取った。
しかし翌26日、疫学調査とPCR検査の結果、すべての発熱患者はインフルエンザ感染者だったと発表し、封鎖を解除した。
(参考記事:「発熱患者はインフルエンザ」北朝鮮の防疫司令部発表)地域の人々は、悪夢のようなロックダウンを思い出し恐怖に震えたことだろう。この地域では今まで何回もロックダウン措置が取られ、食べ物をあらかじめ確保できなかった人が次々に餓死する事態が起きていたからだ。
(参考記事:「一家全滅、10人餓死」も…金正恩“封鎖解除”のウラで何が)
地元当局は、今後、発熱患者が発生した場合は、3日間の隔離措置で済ませる方針を示したと現地のデイリーNK内部情報筋が伝えた。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面両江道非常防疫指揮部は、風邪の症状がある患者に対して、3日間の隔離を行えとの指示を下した。これに伴い、もし熱が出た場合は、自宅で隔離生活を行うことになる。
今回の指示については、先日の緊急封鎖措置はインフルエンザであったのにコロナと誤診したことにあると指摘し、インフルエンザの蔓延を防ぐために隔離しなければならないとした。
「インフルエンザはウイルスにより感染し広がる急性疾病で、感染者の咳、くしゃみにより、空気や汚染された物を通じて感染が広がるので、必ず隔離生活を行わなければならない」(指示の一部)
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面これは、発熱のみならず、咳やくしゃみの症状があるだけでも、隔離を強いられることを意味する。
これまた悪夢のような隔離施設に入らず、自宅で外出せず、3日間過ごせば良いということで、地元民は安堵する一方で、死活問題だと不満を口にする人もいる。
(参考記事:「入ったら生きて出られない」北朝鮮国民が恐れるコロナ隔離施設の惨状)「市場に一日でも出なければ、その日の食べ物の調達が難しいのに、3日も隔離されたら、家族の食べ物は誰が調達するのか」(地元民の声)
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面最大都市の恵山(ヘサン)市では、地域担当の医師が、毎朝家々を回って住民の検温を行うことになっているが、実際のところ「何か症状はないか」と尋ねるだけで、何もせずに帰ってしまう。「朝から暇なのか」と皮肉る人もいる一方で、熱があっても隠せると歓迎する人もいる。
「コロナの症状があると伝えたところで、薬をもらえるわけでもなく、長期間にわたり外出が禁じられ、さらには地域全体が封鎖されるかもしれないという恐怖から、熱があっても隠す人が多い」(情報筋)
自分が病気と飢えに苦しむのはもちろん、地域全体も飢餓状態に陥れるロックダウンを招きでもすれば、どんな批判や処罰を受けるかわからない。また、教化所(刑務所)並みに待遇が悪いと言われる隔離施設に送られるかもしれない。それならば隠し通した方が、自分のため、みんなのためになるということだ。
一方で、地域担当の医師も、行政の担当者も、自分の地域からコロナ患者を出せば「対コロナ勝利宣言」を行った金正恩総書記の顔に泥を塗ることになり、処罰は免れないだろう。毎朝のいい加減なチェックも、発熱患者を発見したくないからに他ならない。
それぞれ思惑は異なるが、政府、防疫機関、自治体、医療関係者、国民が皆一様に、コロナ隠しに必死になっているのだ。
(参考記事:「ゼロコロナ」発表の北朝鮮、国内からも「統計は嘘」の声)