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北朝鮮は「批判」で成り立っている社会だ。すべての国民は、職場や学校などで週1回以上、「生活総和」と呼ばれる自己批判の会に参加する。日々あったことを「生活総和手帳」に書き留め、それを元に自分の行動や考え方を批判する。批判は、他の参加者からも受ける。

その一方で美談があれば、大々的に宣伝する。国営の朝鮮中央通信の記事を一例に挙げる。

人民経済の複数の部門、単位で5月の人民経済計画を完遂

【平壌6月2日発朝鮮中央通信】人民経済の複数の部門と多くの単位が、5月の計画が完遂した。
基幹工業部門の活動家らは、戦闘目標と計画を力動的かつ科学的に立てて党の決定を貫徹するための組織・政治活動を綿密に行っている。

金策製鉄連合企業所(咸鏡北道)では、酸素熱法溶鉱炉の一日の出銑量を増やすための技術革新活動を展開して銑鉄生産水準を引き上げた。

黄海製鉄連合企業所(黄海北道)、保山製鉄所(南浦市)、殷栗鉱山(黄海南道)、載寧鉱山(同)では月計画を超過遂行したし、富寧合金鉄工場(咸鏡北道)、興南電極工場(咸鏡南道)、長山鉱山(平安南道)でも、フェロシリコン、電極、耐火物の生産を増やした。

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興南肥料連合企業所(咸鏡南道)、南興青年化学連合企業所(平安南道)、2・8ビナロン連合企業所(咸鏡南道)をはじめ化学工業部門の活動家と労働者たちも、厳しい防疫試練の中でも日別、旬別計画を狂いなく完遂した。
(以下略)

北朝鮮では虚偽報告が横行していることから、本当に達成できたのかは現場の担当者にしかわからないことだが、それはともかく、企業所内はもちろん、外部に向けても大きく自慢し、国営メディアも社名を出して大きく報じる。

そんな「自慢話」のネタとなった現場の実態を、咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋が伝えている。

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咸鏡北道人民委員会(道庁)は最近、道内のすべての機関、工場、企業所の責任者を集めて、7月の工業部門の人民(民生)経済計画、つまり計画経済の中枢を司る国家計画委員会が決めた計画の遂行状況を評価し、ランキングを決める会議を開いた。

対象となったのは、規模の大きい城津(ソンジン)製鋼所や金策(キムチェク)製鉄所、茂山(ムサン)鉱山のみならず、零細な軽工業工場や、8.3消費品生産組合までを含めた。ちなみに8.3とは、廃材などをリサイクルして製造した生活必需品や食料品のことを指す。

(参考記事:金正恩命令「火葬場でリサイクル」の実態に北朝鮮国民が驚愕

ランキングで堂々の1位に輝いたのは、城津製鋼所だった。その技師長が、いかにして頑張ったかという体験談を語ったのだが、これがまたブラックな自慢話のオンパレードだった。

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城津製鋼所の技師長は、国が5月12日に新型コロナウイルスの感染者が発生したことを公式に認め、最大非常防疫体制に突入すると宣言した後も2交代制で24時間稼働を続け、労働者を家に帰さず働かせ続けたと自慢げに語った。

また、労働者が疲労の蓄積で扁桃腺炎か風邪かわからない病気にかかっても、労災事故が複数回発生しても、一言も文句を言わせずに現場に投入し、技術伝授、科学技術の普及、技術革新の講義も受けさせ、生産活性化と人間改造事業(意識改革)を行い、7月の人民経済計画を達成したと豪語した。

超の付くブラック企業の経営者が、自社のことを自慢げに語る例は日本でも見られるが、計画の達成、さらには前倒しや超過達成、つまり「速度戦」が美談として毎日のように国営メディアで報道される北朝鮮では、社会的にもよいこととされている。

そんな自慢話を延々と聞かされ続けた他の企業所の責任者たちだが、計画未達成で、人民委員会から厳しい批判を浴びせかけられた。当然のことながら面白く思うはずがなく、裏で文句タラタラだったという。

「通常なら事故が起きれば、それによる結果の法的責任を負わされるものなのに、城津製鋼所は計画を完遂したからと、かばってもらえるのだ」(ある企業所の責任者)

朝鮮労働党の命令とあらば、不可能なことでもやれと命じ、早く成果を出せと催促するため、大小様々な事故が頻発しており、その責任は現場に押し付けられる。また、計画は達成したものの、完成品は粗悪で使い物にならないということもあるが、計画が達成できたのだからと問題にされない。

(参考記事:責任は現場に押し付け…北朝鮮・繊維工場での爆発事故

実際、人民委員会は「人民経済計画は即ち法だ。先頭を行く企業所の経験と闘志に学び、遅れている計画を無条件ですべて達成せよ」と強く指摘した。

これに対して責任者たちは「仕事をしたくとも原材料がないのに生産に入れない、だからといって休みにして遊んでいるわけにも行かず、イルクン(幹部)も労働者も毎日のように住宅建設も並行しているのに、なぜ悪く言われるのかわからない」と不満を口にしたという。

そもそも、需要というものは、気候や消費者の趣味嗜好など様々な要因に基づき変化するものだが、それを全く無視して、生産計画を決めるのが計画経済だ。売れないものが量産され、必要なものが不足する事態を生み出す。北朝鮮の市場で売られている製品の9割が中国製という現状を見ると、計画経済の破綻ぶりがわかる。

20年以上続いた計画経済の機能不全、それを補って尚余りある市場経済化の顕著な進捗に伴い、国民生活が一定程度改善したと言われているが、ここ数年で計画経済に回帰しようとする傾向が見られる。経済の主導権を国の手に取り戻し、統制を図ろうとする意図があるものと思われるが、試行錯誤を繰り返してむしろ退歩する結果を生み出している。

(参考記事:国産製品の品質低下が深刻…「取り締まり」で解決図る北朝鮮