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朝鮮民主主義人民共和国の社会主義憲法は第1章第8条で、人権について次のように言及している。

朝鮮民主主義人民共和国の社会制度は、勤労人民大衆がすべての主人となり、社会のすべてが勤労人民大衆のために服務する人間中心の社会制度だ。国家は搾取と圧迫から解放され、国家と社会の主人となった労働者、農民、軍人、勤労インテリをはじめとする勤労人民と利益を擁護し、人権を尊重し保護する。

しかし、北朝鮮社会の現実はこれとかけ離れている。世界自由度指数、民主主義指数、経済自由度指数、CIRI人権データプロジェクトなど、世界各国を対象にした自由と人権に関する指数で、北朝鮮はいずれも最低ランクだ。また、国連人権理事会は20年連続で北朝鮮を非難する決議を採択するなど、世界最悪の人権侵害国家であることは、明白だ。

(参考記事:「米国の敵視政策の所産」北朝鮮、国連人権決議に反発

だが、北朝鮮当局は最近になって、国民を対象とした思想教育の場で「人権」を強調するようになっている。一体なぜなのだろうか。平安北道(ピョンアンブクト)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

朝鮮労働党宣伝扇動部は最近、思想教育に関する資料を配布した。資料では、まず最初に次のように言及されている。

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「人権は政治、経済、文化をはじめとした社会生活のすべての分野において、人民が行使すべき自主的権利」
「人権は、人間の自主的権利で、いかなる場合にも侵害されず、それを保障するのは、世界のすべての国と民族の当然の義務」

おそらく世界人権宣言の第2条を、北朝鮮式に噛み砕いて説明したものと思われるが、人権侵害の親玉というべき朝鮮労働党が、人権を語るとは噴飯物だ。

国際社会からの人権侵害についての指摘に対しては強く反発しているものの、内心では気にしているようで、保衛員(秘密警察)や安全員(警察官)の横暴な振る舞いを諌めることもあるが、それも時が経てば有耶無耶になってしまう。

(参考記事:「もしかしたら人権侵害かも…」庶民の逆襲を恐れるようになった北朝鮮の警察官

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今回の人権教育の真の目的は、やはりここにあるようだ。

「真の人権は、どの国でも保障されるものではない。いかなる社会制度かによって、人権が保証されたり、蹂躙、抹殺されることもある」

言い換えると、人徳の高い金正恩総書記という最高指導者を戴き、無償の医療、教育が保証されている北朝鮮こそが、真の人権が守られている国だということだ。実際、資料はそのことに言及している。

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「わが国(北朝鮮)では、すべての人に差別なく政治的自由と権利はもちろん、労働と生存の権利、教育と医療奉仕を受ける権利をはじめとして、社会的人間が享受すべき権利を全面的に保証している」

これは嘘以外の何物でもない。

北朝鮮には「成分」という、すべての国民を5つの階層に分類し、優遇または差別するという事実上の身分制度が存在する。成分の悪い人は条件の良い職場への配属や軍隊への入隊、入党、幹部への登用などの道が大きく妨げられる。当局はその存在を否定しているものの、世界人権宣言に真っ向から反する制度だ。

(参考記事:【徹底解説】北朝鮮の身分制度「出身成分」「社会成分」「階層」

また、無償の医療、教育制度はとっくの昔に崩壊しており、薬は市場で買うのが当たり前、学校でも様々な費用が徴収され、大学に行くにも多額のワイロが必要だ。

(参考記事:金正恩「忠誠のちびっ子計画」に学童父母が猛反発

その現実を痛いほどわかっている庶民からは、当局のお仕着せの人権教育に「なぜ急に人権、人権とうるさく言うようになったのか」という反応が出るのはごく当たり前のことだろう。

ただ、それでも人権教育が行われるようになっただけ、以前よりは進歩していると言えよう。

韓国の大韓弁護士協会が、脱北者を対象にして2020年に行った北朝鮮の人権教育の実態に関する調査では、次のような結果が出ている。

○北朝鮮で「人権」という言葉を全く聞いたことがない:42%
○北朝鮮で人権に関する教育を聞いたことがない:62%

(参考記事:脱北者の42%「人権という言葉すら聞いたことなかった」