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ほとんどのことがカネで解決できるのが、拝金主義、不正腐敗が蔓延する北朝鮮の現状だ。たとえ犯罪を犯したとしても、カネの力で刑期を短くしたり、犯罪そのものを握りつぶすことさえできる。

大学入試も、回答を購入したり、ワイロを使って入学したりと不正まみれだ。このように、何らかの権限は常にカネを生み出す源泉となる。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が、咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋の話として紹介したのは、安全員(警察官)という職業を、カネで買った男性の話だ。

(参考記事:北朝鮮で毎年繰り返される大学の受験不正

話の主人公は、清津(チョンジン)市・水南(スナム)区域の新郷洞(シニャンドン)に住んでいる30代前半の男性だ。兵役を終えた後、職場に配属されたものの一切出勤せずに、テレビや冷蔵庫などの家電製品を売る商売をして生計を立てていた。

こうした商売は職業として認められず、出勤しないことは違法行為だが、職場に一定額のワイロを納めることで出勤扱いにしてもらう「8.3ジル」を行っていたのだろう。

彼はどうやらカネに汚かったらしく、近隣の人々からの評判は今ひとつだったようだ。

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(参考記事:北朝鮮の国営企業「無断欠勤」従業員の連れ戻しに必死

そんな彼が、ある日突然、安全員の制服を来て町内に現れた。それを見た住民はたいそう驚いたという。口コミ社会の北朝鮮で、こんな奇妙な話が噂にならないわけがなく、あっという間に広がり、事情が明らかになった。

市党(朝鮮労働党清津市委員会)の組織部の幹部に、3000ドル(約40万7400円)もののワイロを渡したと、友人に話したという噂が出回るようになった。労働者の一般的な月給が3000北朝鮮ウォン(約60円)という国で、3000ドルは目の飛び出るほどの大金だ。おそらく、家電を売って得た利益を、全部つぎ込んだのだろう。

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そうやって安全員になった彼はこううそぶいているという。

「しんどい思いをして安全員になったのだから、これからは元を取ろう」

北朝鮮で安全員と言えば、権力を笠に着て、庶民にあれこれイチャモンをつけ、細々とワイロをせびり取る嫌われ者だ。そのうえ、もともと素行が良いとは言いがたい人物が安全員になったことで、住民の間には動揺が広がっている。

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「職場に出勤もせずカネ稼ぎに夢中になっていた人も、カネさえあれば安全員になれるという現実を目の当たりにした。町内の人々は、安全員になって1ヶ月も経っていないのに、『元を取る』と公言しているのを聞いて驚愕している」(情報筋)

権限がカネを生む北朝鮮で、安全員は人気の職業だ。コネとワイロでその地位を得て、肝心の犯罪捜査はそっちのけで、庶民からワイロを巻き上げることに熱心になるばかりだという。

ただ、いくら泣く子も黙る安全員とて、やり過ぎると痛い目に遭うことになる。

(参考記事:濡れ衣の女性に性暴行も…北朝鮮で警察官への報復殺人が続発

「カネさえあれば何でも解決できる世の中になって久しい」と述べた両江道(リャンガンド)雲興(ウヌン)郡の情報筋。幹部事業(幹部の採用、異動)がワイロで行われているのは、公然の秘密だと語った。

情報筋の知人の40代男性は、兵役を終えた後、大学にも通っていないにもかかわらず、小さな企業所の初級党書紀に任命され、地域で噂になったという。

朝鮮労働党の末端組織である初級党のトップである初級党書紀になるには、朝鮮労働党への入党、兵役満了、大学卒業の3つの条件に加え、成分(身分)がよくなければならず、8親等に至るまで思想調査が行われる。

(参考記事:【徹底解説】北朝鮮の身分制度「出身成分」「社会成分」「階層」

それらをカネの力ですべてクリアしたのだ。北朝鮮の社会統制の根幹をなす成分ですら、カネさえあればなんとかできるということだ。ただ、上述の安全員と同様に、問われるのは財力で、能力は考慮されない。かくして無能な人物が次々に幹部に登用される事態となっている。

「実力のない者がワイロを渡して幹部になり、偉そうにしているのは本当に見ていられない」(情報筋)