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中国・丹東から平壌行きの列車に乗り、橋を渡るとすぐに北朝鮮の新義州(シニジュ)駅に到着する。数時間に及ぶ入国審査、通関を経て、再び走り始めた列車の車窓から目に飛び込んでくるのは、入口に大きな看板を掲げた古ぼけた工場だ。それが、新義州を代表する大工場、楽元(ラグォン)機械連合企業所だ。

北朝鮮ご自慢のCNC(数値制御装置)工場として、国営メディアにもしばしば登場し、朴奉珠(パク・ポンジュ)内閣総理(当時)も、2016年の70日戦闘の期間中に視察に訪れている。そんな工場だが、最近になって無断欠勤する従業員が増加していると、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じている。

隣接する義州(ウィジュ)郡の情報筋は、約1万人いる従業員のうち、数百人が出勤していないという。理由は「生活苦」だ。

2016年当時、稼働率が3割程度まで低下していたこの工場、それ以降は回復基調にあったようだが、コロナ禍で稼働がストップし、わずかばかりの月給や配給も長期間欠配となってしまっている。

「家族を養わなければならない」と、職場の承認を得て出勤を免除してもらう、いわゆる「8.3ジル」を行う従業員が増え、今月に入ってからは、承認を受けることなく「食べ物を探しに行く」と忽然と姿を消してしまう従業員が出ているというのだ。

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北朝鮮では、すべての男性が必ず国営の工場、企業所、機関に勤めることが法律で定められており、無断欠勤はもちろん、無職であることは違法だ。かつて、配給システムが機能していた時代には、勤め先を通じて配給が行われ、「おまけ」と言っても過言ではない、著しく少額の月給が支払われていた。

配給を含めた社会主義計画経済が機能しなくなった1990年代以降、職場に所属する義務のない女性が市場で商売して現金収入を得て一家を養うようになった。その商売を手伝うために、男性は職場に一定額の現金を支払い、出勤を免除してもらう。これを「8.3ジル」というが、最近は取り締まりの対象となっている。

(参考記事:「職場にきちんと出勤しろ」命令を北朝鮮の労働者が嘲笑う理由

実際この工場も、出勤しない従業員を捕まえるとして、独自の糾察隊(取り締まり班)を立ち上げ、出稼ぎに行っている可能性のある水産基地などに派遣、捜索させている。それでも工場への連れ戻しに成功したのはごく一部で、ほとんどは見つけられずにいる。

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「広い海でカネを稼ごうと身分を隠して働いている労働者を見つけることは、容易ではないだろう」(情報筋)

また工場は、従業員の中の労働党員に対して、無断欠勤が1ヶ月以上になれば、出党(党からの除名)すると警告しているが、党員たちは「家族を飢えさせる方が恐ろしい」と、処罰覚悟で出稼ぎに行っている。

(参考記事:コロナ不況で食い詰めた人々が目指す北朝鮮の「黄金郷」

楽園機械連合企業所について新義州市の別の情報筋は、「金正恩時代に入って、大型の設備や工作機械、各工程にパソコンを設置したCNCなどを導入していると、当局が大々的に宣伝を繰り返してきた機械工業部門の代表的な企業」だと紹介。

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その一方で、プロパガンダとは異なり、国際社会の対北朝鮮制裁に加え、コロナ鎖国で鋼材の輸入がストップし、従業員に配給ができなくなっていると実情を語った。ちなみに、工場周辺は新義州市でも最も貧しい地域だという。

トンジュ(金主、進行富裕層)の投資で建てられた高層マンションが立ち並ぶ市内中心部とは異なり、工場周辺は、曲がりくねった道沿いに木造家屋が密集している様子が、衛星写真からも見て取れる。

(参考記事:「金日成印」のタワマンが北朝鮮富裕層からそっぽを向かれる理由

給料も配給ももらえず貧しい暮らしを強いられている従業員たちは、海を通じた貿易の一部再開に伴い、貿易会社や外貨稼ぎ機関が募集する、網や漁船の修理をする日雇いの仕事をするために、工場を無断欠勤。その妻たちは、豆腐を作って市場で売って生計を立て、おからで飢えをしのいでいるという。

貿易は再開されたものの、ごく小規模に留まっており、当局は市場に対する締め付けを強化。北朝鮮国民が、コロナ対策による生活苦から解消されるにはまだまだ時間がかかりそうだ。

(参考記事:「女性イナゴ商人」踏みにじる金正恩体制に北朝鮮国民が反発