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発熱患者が28日の時点で、総人口の約13%にあたる約344万人に達した北朝鮮。そのすべてが新型コロナウイルスの感染者ではないと言われているが、実際の割合はわかっていない。

今回の感染の拡大だが、平壌のデイリーNK内部情報筋の話では、中国出張に行ってきた貿易会社の指導イルクン(幹部)が、平壌商業大学に通う甥または姪に感染させ、先月25日の軍事パレードの場で広がったとのことだ。

しかし、咸鏡北道(ハムギョンブクト)の会寧(フェリョン)市保衛部(秘密警察)は、全く別の頓珍漢な話を意図的に流している。

(参考記事:金正恩氏がコロナ感染者と濃厚接触した可能性

現地のデイリーNK内部情報筋によると、保衛部が流しているのは次のような話だ。

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「南朝鮮(韓国)から飛んできた敵地物資にコロナウイルスが付いていた」

荒唐無稽な話だが、市民の間で出回っているという。より詳しくは「南朝鮮政府が、脱北者にコロナウイルスを付けた敵地物資をゴム風船に入れて38度線以北に飛ばした」というものだ。

保衛部はこんな話を、市民を対象にした学習会で広げているという。

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市内の城川洞(ソンチョンドン)で行われた学習会では、こんな内容の講演があったという。

「反共和国(北朝鮮)策動に狂った反逆者どもの背後には、わが国(北朝鮮)を抹殺しようとする南朝鮮の安全企画部(現在の国家情報院)がいる」
「全世界がコロナに苦しんでいる中、わが国にはたった1人のコロナ患者もいなかったので、南朝鮮情報機は国に逆らって逃げた者どもを通じ、わが国に悪性ウイルスを浸透させようと必死になっている」

こんな陰謀論に根拠がないのは言うまでもない。

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韓国の脱北者団体が、北朝鮮に向けてビラを入れた風船を飛ばす活動を行ってきたが、2020年12月に成立し法で禁じられている。その後も、違法行為を承知でビラ散布が行われたが、そもそも韓国から飛ばしたビラの入った風船が、500キロ以上離れた会寧まで届く可能性は非常に低い。

何らかの事件や事故、災害で人心が動揺した場合、「韓国のせいだ」と責任をなすりつけるのは、保衛部の常套手段なのだ。

(参考記事:「不穏分子のテロだ」金正恩が“激怒” 重要工場で火災

市民も、こんな話はまともに取り合っていない。それは、会寧ならではの事情も関係する。

「保衛部の人たちが南朝鮮への悪宣伝をしても、国境に接した地域の住民は(真実を)よく知っている。故郷に父母きょうだいがいるのに、南朝鮮に行った人がなぜ悪性ウイルスをわが国に送るのか、話にならないと言っている」(情報筋)

今年6月までに韓国に入国した脱北者3万3501人のうち、約59%にあたる1万9760人が咸鏡北道出身で、中でも中国との国境に接した会寧、穏城(オンソン)、茂山(ムサン)の出身者が非常に多い。

取り締まりの強化で以前ほどではないが、韓国に住む家族と携帯電話で通話することも珍しくない。つまり、北朝鮮で最も韓国の現状に詳しい人々が多く住んでいるのが、会寧を中心とした地域なのだ。程度の低い陰謀論に騙される人などまずいないだろう。

(参考記事:「住民をすべて殺すわけには…」北朝鮮の地方都市で大粛清のジレンマ