今まで頑として国内での新型コロナウイルス感染者発生を認めなかった北朝鮮が、態度を一変させ、発熱患者の発生を認めた。その意図をめぐっては様々な憶測が飛び交っているが、平壌のデイリーNK内部情報筋は、次のように説明した。
「コロナに感染した大学生たちが、1号行事に参加したことが報告された」
1号行事とは、金正恩総書記が参加する行事のことを指す。具体的には金正恩氏が今月1日、先月に行われた朝鮮人民革命軍創建90周年記念の軍事パレードのサポートを行った、平壌市内の大学生、勤労青年と記念写真を撮った行事のことだ。
通常、1号行事参加者には、思想的に問題がないことはもちろんのこと、健康面でも万全であることが求められる。おそらく数日前から隔離され、直前にも検温などの体調チェックが行われたはずなのだが、それをすり抜けてしまったのだ。金正恩氏と感染者が濃厚接触する直前まで追い込まれたことから、コロナ発生を公にして、対応に乗り出したというのが情報筋の説明だ。
北朝鮮のような独裁体制で、最高指導者である金正恩氏の生命の安全は何よりも優先されることだが、それが感染症により脅かされる事態となった。コロナ感染者の発生を公表することは、国民に少なからぬ動揺を与えるが、そのリスクを冒しても責任の追及、原因の把握、再発防止が優先されたようだ。また、効果的な防疫対策を進め、民心の離反を防ぐにも役立つと判断したと思われる。
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ちなみに、コロナ感染した大学生は、いずれも平壌から比較的近い平安南道(ピョンアンナムド)、平安北道(ピョンアンブクト)、黄海南道(ファンヘナムド)、黄海北道(ファンヘブクト)、南浦(ナムポ)市の出身で、撮影後に5〜7日の休暇を与えられ、帰省した。これにより、感染を全国的に広げてしまった可能性も浮上している。
彼らは現在、平壌にある国家臨時隔離施設に収容され、接触があったものと思われる家族も全員が隔離された。また、平壌商業大学の学生全員に対して検査が行われた。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面「感染者が出た団体では、移動医療車を停めて、全人員を対象にした総合検診が行われている。14日までに検査を終え、総合報告を行い、非常防疫法の等級に従って、行政実行秩序を別途通達する予定」(情報筋)
また、液体噴霧、煙霧による消毒が行われ、今後10日間、消毒を繰り返すように指示が下された。
ちなみに、コロナ感染者の発生公表前から、全国各地に隔離施設が設置されていたが、「革命の首都平壌にはコロナ関連施設を設置するわけにはいかない」との理由で、平壌には存在しなかった。しかし、今回の事態を受けて、新設したものと思われる。
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今回のコロナウイルスの感染源だが、今回の1号行事に参加した平壌商業大学の学生の叔父が、貿易会社の指導イルクン(幹部)で、最近、中国出張に行ってきたという。なお、「(中国・丹東の対岸にある)新義州(シニジュ)だけで貿易を行え」との指示には従っており、当人は批判や処罰を受けることにはなっていないとのことだ。
ちなみに丹東は、先月25日からコロナ感染の拡大に伴い、ロックダウンに入った。また、2月から運行されていた北朝鮮と中国を結ぶ貨物列車も、29日から運行が中断された。