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5月20日ごろのこと。中国と国境を接する咸鏡北道(ハムギョンブクト)会寧(フェリョン)市の南門洞(ナムムンドン)に住む40代男性のキムさん宅に、2人の男が訪ねてきた。その正体は、朝鮮労働党会寧市委員会(市党)の組織部長と、町内の党担当書記。そして、こんな「お願い」をした。

「今、国の食糧事情が非常に苦しい。持つ者が持たざる者を助けて、この難関を皆で乗り越えよう。いくらでもいい。コメでもカネでもいいので、良心を尽くして助けてほしい」

地域のお偉方からのこうした「お願い」は、実質的には「命令」として作用する。キムさんは結局、現金100万北朝鮮ウォン(約2万円)とコメ25キロを寄付せざるを得なくなった。

このような「お願い行脚」は、上部組織の出した結論に基づいて行われたものだ。その詳細を、現地のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

朝鮮労働党咸鏡北道委員会(道党)の責任書記(地域のトップ)は19日、道党と市党、検察、保衛部(秘密警察)、安全部(警察)、人民委員会(道庁、市役所)の責任イルクン(組織のトップ)を集めて緊急会議を開いた。議題は食糧問題だ。

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北朝鮮では、コロナ鎖国により海外からの食糧輸入が停止されているところに、前年の収穫の蓄えが底をつく「春窮期」が到来。さらに、コロナの感染拡大を受けた緊急対策で外出が禁止されるなどして、食糧問題の三重苦に襲われている。各地では、蓄えが底をついた「絶糧世帯」や、ロックダウン中に食糧を入手できなかった世帯を中心に、餓死する人が出ている。

(参考記事:「もうダメだ。希望が消えた」食糧難の北朝鮮で絶望の声

道党の責任書記は「元帥様(金正恩総書記)が、人民のために自分と家族の常備薬まで寄付されたというのに、われわれがじっとしていてもいいのか」と檄を飛ばした上で、各機関の責任イルクンが、地域の食糧問題の解決の先頭に立つべきだと訴えた。

そこで示された具体的な策が、「余裕米を探して集める運動」なるものだ。貧しく苦しい生活を強いられている人々に、カネとコメを支援することで、この難関を乗り越えようというものだ。

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北朝鮮ではたとえ金持ちであっても、当局からたかられたり、非社会主義行為(風紀紊乱行為)を行ったなどとイチャモンをつけられ財産を奪われたりと、様々なリスクにさらされている。そのため、富は隠して置くのが一般的だ。

(参考記事:タクシーに乗っただけで通報される!?北朝鮮が国民に下した奇妙な命令

巨額の寄付をして国から勲章をもらえるほどの「超」のつく金持ちでない限り、寄付の訴えには耳を貸そうとしない。そこそこの富を蓄積していることがバレてしまうためだ。そこで咸鏡北道では、「カネの出所は問わない」ということを明確にした上で、寄付を頼もうということになったようだ。そして、ターゲットになったのが、上述のキムさんのような小金持ちというわけだ。

ただ、前言は翻されるのが北朝鮮の常。今後ありうる何らかの取り締まりキャンペーンで、キムさんのような人々は、カネを持っているという理由だけでスケープゴートにされかねず、すでに不安な日々を送っているはずだ。

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(参考記事:公開裁判にかけられた北朝鮮の夫婦、容疑は「金儲け」

集められたコメは、人民委員会を通じて、貧しい人々に分配されている。いずれも「コロナで死ぬのではなく、飢えで死にそうだ」というほどの底辺生活を送っている人々だ。

今回の緊急会議では、市場の商人が、食糧価格を「勝手に」上げられないように統制する件も討議された。食糧価格は商人が「勝手に」上げているのではなく、相場に基づいて形成されているのだが、22日時点での会寧市場でのコメ価格は7000ウォン、トウモロコシは3400ウォンで、先月末と比べてそれぞれ1700ウォン、900ウォン上昇している。(※いずれも1キロの価格。1000北朝鮮ウォンは約20円)

当局は食糧価格安定のために、市場での穀物の売買を禁じ、食糧収買商店(国家食糧販売所)での販売に一本化する方針を示しているが、これがうまく行っていないのだ。そのため商人への締め付けを強化して、価格を安定させる以外に手段がないと見られる。

(参考記事:穀物販売権の独占を目指すも後退を強いられた北朝鮮