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北朝鮮で牛は、生産手段として扱われており、国家財産となっている。個人による所有、屠畜、販売は禁じられ、違反者は単なる経済犯ではなく政治犯扱いとなる。許可なく食べたり販売したりして、銃殺される人もいたほどだ。

ただ、金正恩政権に入ってからは、国に登録した牛の個人による利用を認めてきた。インセンティブ制度の圃田担当制の下で、農場から農地を任された個人が農耕を行うには欠かせないからだ。しかし、未登録の牛が増えたため、当局は農民が所有する牛に対する全数調査に着手した。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

(参考記事:北朝鮮では「牛肉を食べたら銃殺」だった

平安北道(ピョンアンブクト)龍川(リョンチョン)郡の情報筋は、今月16日から西石里(ソソンリ)の協同農場で、個人が育てている牛の調査が始まったと伝えた。これは、朝鮮労働党龍川郡委員会の指示で、農場管理委員会が行っている。

家々をまわり、鼻輪をしている成牛と鼻輪をしていない子牛に分類して国に登録し、成牛は協同農場の田起こしに動員している。登録が義務化されているにもかかわらず、実際には登録されていない牛が相当数いるようだ。

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未登録の牛が多い理由について、平安北道定州(チョンジュ)市の情報筋は、圃田担当制を挙げる。2015年ごろから圃田担当制が強化され、農民は少しでも多く収穫を得ようと頑張ったが、国から一切の営農資材が供給されず、田起こしなどに必要な牛も、協同農場所有の牛を借りて使わざるを得なかった。しかも、それがまたタダではない。現金の代わりに穀物をレンタル料として徴収されていたのだ。

レンタル料の負担に頭を抱えていた農民は、協同農場と畜産班と「事業」を行った。つまり、畜産班の担当者にワイロを渡し、生まれた子牛を引き取って個人の所有にすることで、効率的な農業を行えるようになった。また、農民間での牛の取り引きも活発になった。その結果として、未登録の牛が大量に現れたという流れだ。ちなみに子牛1頭は3〜40万北朝鮮ウォン(約5400〜7200円)で取り引きされている。

だが、弊害も存在した。本来は農耕に利用するための牛だが、それよりも市場で荷物を運んだほうが儲かるとして、運送用に使う事例が増えたのだ。

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金正恩総書記が昨年末の朝鮮労働党中央委員会第8期第4回総会で、農業問題の解決について力説したことをきっかけに、未登録の牛が多数存在し、商業用に使われていることが問題視され、牛の全数調査が行われることになった。

(参考記事:「農民の古い思想を根絶」金正恩氏、党総会で農村3大革命を提唱

これに対して農民からは、「国はエサも出さないくせして、タダで牛を使おうというのか」という不満の声が上がっている。今後、牛は春以外にも、必要があれば農場に強制動員される。その分、運送用として使える日数が減り、所有する農民の現金収入も減ることになる。

「嘆願事業」に象徴されるように、人も牛も動員さえすれば農業問題が解決するという非常に安易な考えに基づいているのが、今回の調査と言えよう。

(参考記事:毎年凶作の北朝鮮農業、何が問題なのか?