「韓国からのカネは受け取れない」ある女性を襲った恐怖体験

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現在、韓国で暮らしている3万3000人あまりの脱北者。その8割近くは、中国との国境に接する咸鏡北道(ハムギョンブクト)と両江道(リャンガンド)の出身だ。中には北朝鮮に家族を残したまま脱北した人もおり、非公式なルートを通じた送金が行われている。

ところが、韓国に住む娘から送られてきた送金を受け取らないという女性がいる。咸鏡北道の会寧(フェリョン)に住むキムさんだ。それには、それなりの理由がある。

(参考記事:韓国在住脱北者から北朝鮮への送金、前年比で減少

現地のデイリーNK内部情報筋によると、旧正月(今年は2月1日)を迎え、キムさん宛に韓国に住む娘から送金が届いたが、送金ブローカーが3回訪ねても、受け取らないと言っている。

キムさんは、娘が残していった10歳の息子を育てながら暮らし、生活費として韓国から送金を受けていた。ところが昨年10月、懇意にしていた送金ブローカーが保衛部(秘密警察)に逮捕された。

(参考記事:手錠をはめた女性の口にボロ布を詰め…金正恩「拷問部隊」の鬼畜行為

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キムさんも連行され、15日間の取り調べの間、様々な暴言を浴びせられ、暴行を受けたという。さらに家宅捜索もされて、5500元(約9万9000円)もの現金を押収され、労働鍛錬刑(懲役刑)1カ月の処分を受けた。

釈放後も、保衛部の情報員(スパイ)が、キムさんをつけ回し、ストレスを与え続けていた。それに耐えかねた彼女は、もう送金を受け取らないと言い出したのだ。そして、娘にこう伝えたという。

「もう連絡してこないで。あなたの息子はちゃんと育てているから、あなたがそちらで良い暮らしをしているのなら、もう望むことはない。理由は聞かずに、もううちに人(送金ブローカー)を送らないで。それがわたしたちを助ける道だ」

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保衛部で痛めつけられ、人民班(町内会)でも、送金に必要な中国キャリアの携帯電話を持っていれば無条件で教化所(刑務所)送りになると警告を受け、娘との縁を切ると言い出したのだ。よほどの恐怖を与えられたからこその決断だろう。

(参考記事:「親子の縁を切るしかない」脱北者の母に苦渋の決断を迫ったものとは

地域住民の間では「(韓国に住む)家族が苦しい思いをして送ってくれた仕送りを、使うこともできずに保衛部に奪われ、法的処罰まで受けるのなら、いっそ粥をすすってでも、心穏やかに過ごしたい」という人が増えていると、情報筋は伝えた。

かつて、国境沿いの地域の保衛部は、送金ブローカーや、韓国に住む家族から送金を受け取った人から、ワイロを受け取ることで収入を得ていた。また、韓国から流入した資金は、地域経済を潤していた。もちろん、そのすべてが違法行為だ。

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だが、密輸、脱北、中国キャリアの携帯電話の使用により強い姿勢を臨むという中央の方針に基づき、取り締まりが強化された。かくして、地域経済が崩壊に追い込まれたわけだが、中央がその穴埋めをしてくれるわけもなく、市民と地域は、極貧のままで取り残されることになったというわけだ。「水清ければ魚棲まず」である。

(参考記事:「取り締まり強化」が止まらない北朝鮮の国境地域