「親子の縁を切るしかない」脱北者の母に苦渋の決断を迫ったものとは

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北朝鮮の抑圧体制を支える秘密警察、国家保衛省(保衛部)の要員たちは、その絶大な権限を悪用して国民を痛み付け、カネを搾り取ってきた。そんな保衛部の脅迫に耐えかね、親子の縁を切る選択を迫られた脱北者がいる。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)に住んでいたキム・ミンスクさん(仮名)は5年前に脱北し、今は韓国で暮らしている。キムさんはデイリーNKの取材に、一部始終を語った。

キムさんは、北朝鮮に残してきた息子リ・ナムギュさん(仮名)と、中国キャリアの携帯電話を使って連絡を取り合ってきた。

今年9月、リさんはいつものようにキムさんと通話していた。そこを保衛部に急襲され、逮捕された。通常、海外に電話する場合には、問題にならないように保衛部にあらかじめワイロを渡す必要がある。中国への留学経験を持つリさんがそれを知らないわけがなく、何らかの理由でワイロを渡さなかったため、逮捕されたものと思われる。もしくは、保衛部にカネが必要な事情があり、あえて逮捕した可能性もある。

保衛部は、リさんに母親との音声通話の記録と携帯メールを証拠として突きつけ、激しい拷問を加えた。妹のリ・ヨンミさんも逮捕されたが、幸いにも数日後に釈放された。しかし、それにはワケがあった。

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「お前の母親が韓国にいるのは知っている。期限までに3000ドル(約33万7000円)を用意しなければお前と兄は重罰に処される。母親に電話してカネを用意させろ」(保衛部)

妹は、返してもらった携帯電話でキムさんに連絡した。それを聞いたキムさんは、食堂で働いて得た貯金に友人からの借金を加え、送金手数料を含めて5000ドル(約56万2000円)を用意し、送金ブローカーを通じて北朝鮮に送金した。ちなみに送金手数料は、安くても送金額の2〜3割、現在では5割に達しているとの情報もある。

送金を終えたキムさんは、息子のリさんに電話をかけてこのように伝えたという。

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「この通話を最後に親子の縁を切りましょう。私があなたたちに電話したことで問題になったのだから、赤の他人として暮らすことがあなたたちを生かすことになる。兄が釈放されても一切連絡してはいけないと伝えて欲しい。私たちはもう赤の他人。幸せに生きなさい」

キムさんは、デイリーNKとのインタビューで次のように語った。

「(韓国で)苦労して稼いだカネを(北朝鮮に残してきた家族に)時々送っていたが、まさか保衛部にやられるなんて。息子は中国で医者になるための勉強を終えて帰国し、何不自由なく暮らせると思っていたが、保衛部のせいで家族の縁を切ることになってしまった」

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保衛部は「やりすぎた」せいで、いい「カモ」を逃してしまった形になるが、北朝鮮にいる兄妹がこれで本当に執拗な金品の要求から逃げ切れるかはわからない。ソウルに住む脱北者は、保衛部から脅迫される脱北者家族が増えているとして、次のように語った。

「保衛部もカネに困っているのか、家族をネタにして脅迫される人が増えている。ほとんどがその日暮らしや単純労働で貧しい暮らしをしているが、家族の命がかかっているため借金をしてでも保衛部にカネを送ろうとする」

国家保衛省は最近、中国から強制送還されてきた脱北女性を拷問した取り調べ担当者を8階級の降格処分とした。国際社会の批判を意識したものと思われる。

(参考記事:北朝鮮、脱北女性を拷問した将校を厳重処分…人権問題を意識か

だが、暴走した要員への処罰が少しくらい強化されたとしても、暴力で社会を支配してきた保衛部の本質が、それほど簡単に変わるとも思えない。