北朝鮮は昨年1月から、新型コロナウイルス対策として貿易をストップしている。今年の春先に大規模な消毒場が完成し、新義州(シニジュ)税関が業務を再開、貿易のワック(取扱い枠)の申請受付と発行が行われるなど、再開に向けて期待が高まったが、実際に認められたものは緊急性の高い食糧や肥料などごく一部に過ぎない。
主な理由としては、全世界的なコロナ禍が収まっていないことが挙げられるが、それ以外にも様々な要因が考えられる。そのひとつが外貨不足だ。北朝鮮は信用が低いため、貿易はバーター、もしくは代金の半分を手付け金として先払いさせられることが多いが、本格的な貿易再開に至っていないため、そうしようにも充分な外貨が手元にないようだ。
(参考記事:運行再開が遅れる北朝鮮行きの国際列車…本格的な貿易再開はまだ先か)当局は、国内で流通している外貨を何とかして国庫に吸収しようと様々な手を繰り出してきたが、ついにこんなものまで外貨で販売するようになった。咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋が伝えたその品物とは、穀物だ。
当局は、市場での穀物流通を禁止し、販売を国がコントロールできる国家食糧販売所で一本化する方針を示したが、今回下された指示は、販売所での食糧購入時に「外貨を使っても良い」というものだ。実際、会寧(フェリョン)市内にある国家食糧販売所では中国人民元の受け取りが始まった。
(参考記事:金正恩氏の肝いり「国営米屋」、オープン直後から経営難航)指示には「地域別特性に合わせて外貨を使っても構わない」というくだりがある。これは首都・平壌など内陸では主に米ドル、咸鏡北道、平安北道(ピョンアンブクト)、両江道(リャンガンド)、慈江道(チャガンド)など中国との国境に接した地域では人民元が主に使われることから、住民の便宜を図り、最大限外貨をかき集めようとする意図があるものと思われる。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面さて、国家食糧販売所で買い物をすると、どれほどお得なのか。会寧にある店舗では、コメ1キロが4.55元(約77円)で販売されている。今月12日の市場での為替レートは1元(約17円)が700北朝鮮ウォンであることを考えると、市場でコメを買うよりも800北朝鮮ウォン、約2割引で買えることになる。
これだけ安いとあって、実際に人民元でコメを買う人が少なくないというが、国家食糧販売所で他人の名義を使ってコメを安く書い、市場で高く売る転売ヤーが続出していると伝えられている。当局の関心は、庶民の暮らしを少しでも楽にすることより、外貨を一銭でも多くかき集めることの方にあるのだろう。
(参考記事:金正恩印の「国営米屋」、開店休業つづき計画挫折か)