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北朝鮮と中国を分かち、白頭山から黄海へと流れる大河、鴨緑江のほとりに完成した25階建ての高層マンション。金日成主席を象徴する太陽をかたどった楕円形の建物は、カジノホテルとして建設されていたが、中国政府からの激しい抗議でマンションへと用途変更された。

このマンションへの入居が今月から始まったことは、デイリーNKジャパンでも既報のとおりだが、部屋を購入した人たちが入居をためらっているようだ。それには、北朝鮮ならではの理由があった。

(参考記事:高級マンションになった「金日成印」カジノホテル

平安北道(ピョンアンブクト)新義州(シニジュ)市の関門洞(クァンムンドン)にできたこのマンション、半分が本来の目的である科学者、教育者に提供され、残りの半分は、建設費を負担した党幹部やトンジュ(金主、新興富裕層)に見返りとして提供された。

しかし、彼らは入居しようとしないという。現地のデイリーNK内部情報筋は説明する。

「マンションが沿線(国境)地帯にあるため、当局の統制と監視の目が厳しい」

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マンションが立っているのは、北朝鮮と中国を結ぶ鴨緑江大橋(中朝友誼橋)のたもとで、川までは約500メートル、中国までは約1.1キロというロケーションだ。その上、高層であるため中国の携帯電話やテレビの電波が非常にクリアにキャッチできる。

大きなメリットであると思いきや、これがデメリットになるのだ。

(参考記事:北朝鮮「私的蓄財」で一斉摘発…大粛清に震える富裕層たち

情報筋によると「高層マンションに入居すれば当局の監視が厳しくなり、南朝鮮(韓国)の映画やドラマを自由に見られない」「国境地域(中国)との通話もできない」との声が多くあがり、自由に暮らしたいという人々が入居を避けているというのだ。

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(参考記事:北朝鮮「金持ち女性」たちの密かな楽しみ…お国の指示もそっちのけ

トンジュは、規制の多いところを嫌がる。そもそも、北朝鮮で商売をするには法に触れる行為は避けられない。例えば、他人に金を貸して利益を受け取る行為は刑法113条の高利貸罪にあたり、最高刑は懲役3年だ。

規制の厳しい地域に住めば、摘発されるリスクが高まる。その代表例が首都・平壌だ。取り締まりに引っかかれば、地方に追放されかねない。しかし、市の境界線を越えると規制はゆるくなる。そのため、平壌市の隣にある平安南道(ピョンアンナムド)の平城(ピョンソン)市には、数多くのトンジュが住み、全国有数の巨大市場が形成されている。

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今回のマンションは、眺めは素晴らしいかもしれないが、日々の商売や楽しみが制限されるとなれば、何の得にもならない。

(参考記事:北朝鮮のニューリッチ、最近のトレンドは「郊外の豪邸に住む」

情報筋はまた、このような分析も示している。今回マンションに投資した人々は、すでに住宅を複数所有しており、入居に必要な「入舎証」を居住目的で受け取ったわけではないとのことだ。北朝鮮の不動産市場は、この「入舎証」を売買する形でなりたっているので、最初から売却するつもりだったということだろうが、今すぐ売り払うには状況がよくない。

新義州市の人口は30万人程度。市内では、金正恩氏が政権に就いて以降、高級マンションの建築が相次いだが、そもそも新築マンションを購入できるほどの経済力を持った人はごく少数だ。海外からの投資も期待できないため、国内需要に期待するしかない。

儲け話の少ない北朝鮮では近年、資金が不動産に集中した。また、住宅建設は当局が成果として誇示できるものでもあり、需要を遥かに超える高級マンションが供給された。それに加え、国際社会の制裁による経済難で価格が暴落した。このような状況では、手にしたマンションを売るより、価格が上昇するまで持っておくのが得策だろう。

また、今は不動産取り引きへの取り締まりが強化されているという事情もある。

(参考記事:北朝鮮、不動産売買を取り締まる方針

住宅法では、正当な理由なく定められた期間内に入居しない場合、必要のない場合には入舎証を返納するとしているが、マンションが建設できたのは、党幹部やトンジュが資金や資材を提供してくれたおかげ。それもあって、市党(朝鮮労働党新義州市委員会)も中央党(朝鮮労働党中央委員会)も、入居しないことに対してこれといった規制はできずにいる。